題名

三世相道行(さんぜそうみちゆき)

本名題

三世相錦繍文章,道行蝶吹雪(さんぜそうにしきぶんしょう,みちゆきちょうふぶき)

別題

おその六三(おそのろくさ)

詞章

声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第4編 常磐津集(明治42年)

(資料の題名『道行蝶吹雪』)
(資料の題名読み「みちゆきちょうのふぶき」)

(狂言堂左交述)

『春更て江戸の淡路の上総山、洲崎にかよふ浜千鳥、幾夜寐覚の関もなく、今は身で身をうらむらさきの、褄にかしくを反古染に、覚悟も対の晴小袖
『蝶花の外を吹雪の二人連、狂ふともなくほら/\と風に押れて踏所なき、足弱車引悩む、おそのを抱きいたはりて、脊撫さすり声曇り
『世の成行とは言ながら、長の病気の其上に、苦労のありたけ仕尽て、情と義理に身を捨る、不憫の者やと抱締れば、顔つれ/゛\と打守り
『アレまた什麼勿体ない事言はしやんす、大切な宝を失なひ、御浪人にした元はと言ば私故、今更言も愚痴なれど、誓ひは二世と三世相、あけて数へて相性に、金と水とは上もない、よい子儲けていつ迄も、中睦ましう栄へると、書て有は真実の、本と思ふた甲斐もなう
『アノ兄さんの胴慾故、子は儲けても情無い呵責の責の堕胎薬、日の目も見せず其上に、いくせの思ひで育てたる
『おまつも非業に先立て、お前へ何と言訳なく、口惜と思ふ一心に
『兄を殺した身の罪科、親子兄弟夫婦まで、一夜のうちに死るといふ、斯麼因果があるものぞと、男の膝にすがりつき、前後正体泣沈む
『六三は心励まして
『是はしたり二人長らへ居るならば、その歎きもさる事ながら、娘にも長庵にも、死ばあの世でまた遇はれる、今端の際に其様な、愚痴を言ふものではない、人は最期の一念によつて生を引くと言ば、心を清うもつて死るものぢやわいのう
『ほんに爾でござんす、おまつを先立て跡に心残りはなけれど、旦那さん御夫婦に御恩もおくらず
『ハテそれが矢張迷ひの種、もう/\思切つてアレ見やいの此マア土堤からが袖が浦、見晴す夜半の春景色
『月は冴れど晴間なく、涙に雨のかき曇り
『袖の雫を後の世の、手向の水と花見月
『十八日を命日に、なるとも知ず堰れて後
『逢たも丁度あとの月
『数へて見れば
『同じ日に
『送りの船の三味線も、何処へ佃のうはの空、心矢走にそれからさきは、文で知せて松本へ、互ひに焦れよるとなく、昼も洲崎で青嵐、一寸ひぞりて三井ならぬ、八幡鐘の別路に、まめでといふを汐浜の、涙と共に落る雁、富士の暮雪に夕照す、野木場の月の影清く、今ぞ後生の雲晴て、既成仏と立留り
『病上りのそなたを歩ませ、何処まで往たとて爰ぞ人の死所と定まつた場所もないもの
『其上私は兄さんを殺した科、縄目に掛らぬその先に、早う死たう御座んすが、此マア自堕落な態、一寸帯を締直すまで待て下さんせ
『と死る今端に前後、所体繕らう心根は、夫に見する女気の、哀れさいとゞ柾木垣、もれて念仏の声幽か
『南無阿弥陀/\/\
『ヲヽ幸ひアリヤ霊岸寺の常念仏、声を知辺に
『死出の山路へ
『手に手を取て
『エ嬉しう御座んす
『南無阿弥陀/\
『心静かに支度しや
『アイもうし此扱帯で足を確りといはへて下さんせ
『ほんに乱さぬやうにわしが斯して、ヲヽこれはしたり強う痛むであらうのう
『なんのマア今死る身に厭ひはない、六三さん今一度顔を見せて下さんせいナア
『南無阿弥陀/\/\
『覚悟はよいかと
『此世の念も明近き、女夫の命短夜や、今ぞ最後と引寄て、泣顔残すな残さじと、笑顔つくれど手も慄ひ、刃の立どもなく涙
『コヽ此胸元を
『ヲヽせきやるな/\
『イエ/\早う
『と女がいさめを力草、風誘ひ来る題目も、われをすゝむる妙法の、利剣とぐつと貫けば、七転八倒こはいかに、切先喉の笛をよけ、死もやらざる最期の業苦、共に乱れて苦しみの、気を取直し引寄て、われと我身に貫きたて、抉る苦しさ暁天の一声死出の田長鳥、冥途の空へと行迷ふ

分類番号

00-1331200-s1n0z4s5-0001
データ入力日:2016/05/17

常磐津 三世相道行 歌詞