題名

乗合船(のりあいぶね)

本名題

乗合船恵方万歳(のりあいぶねえほうまんざい)

詞章

声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第4編 常磐津集(明治42年)

(資料の題名『乗合船恵方万歳』)

『賑ひは花のお江戸の隅田川、月の都も及びなき、景色を茲に都鳥、いざこさなしの乗合と、浮た同士の渡し守
『筑波根の、此面彼面と口真似に、問ず語りを庵崎の、横に素顔の富士額、蓮葉者でも悪性は、観音さんへ願込めて
『裸参りの子飼から、脊中に胼の出仕事を、たゝき大工の倶かせぎ
『そんなお方と添うなら、ほんに嬉し燗酒白酒と、その御贔屓を山川に
『競べやうなき有難さ、睦み話の向ふより
『海上遥かに見渡せば
『五色彩る宝船、よい乗合とわせられても、乗遅れたは不審な、
『色にや賢いそれさまなれど、なじよにさつしやれたエ恋知ず
『イヽヤ悔むなそこへ気の、付ぬエヽ太夫ぢやなつけれど、何れも様へ改めて、御祝儀申入れのある
『芝居を一寸立見して、ツイ遅なはる御無礼と、足を早めて来りける
『ヤレ/\嬉しや/\、わしは又向ふへ越る船ぢやと思つた、ヤア美しい姉へ達が是は有難い/\
『アコレ/\其様に女さへ見ると埒も無い事を、女の無い国から参つた様に無性に有難がる事はない、第一外聞が悪いはさ
『アコレ/\太夫様、遥々三河の国から斯して来るのも、お江戸サアの美しい姉へ達を見物がてらぢやて、ヤア一服吸べいかな
『ホヽウ扨は足下達も頗る好色家と見へるね極うれだのハヽヽヽヽ、ヤ頼母/\
『然し乍ら袖振合も他生の縁だ、何ぞ面白い咄を皆やつつけねへ
『ほんに夫がよう御座んせう
『先初春の事だから、白酒屋さんお前先へやつつけねへ
『左様ならばお所望にまかせ、抑々白酒の始りは、富士の白雪は朝日で解る
『解たがどうしたへ
『娘島田はサ口説の半ばでサ寐て解る
『ヤレヨイ/\よい評判でうかりける
『是は白酒の先生妙々ハヽヽヽヽ
『サア/\これから番匠殿、お手前の番ぢや/\
『エヽ仕方がねへ、そんなら大工道具になぞらへて、惚気話をやつつけべい
『そも
『番匠の始りは敲き大工のこちとらが、聞ても上のそら仕事、嘘を突鑿差曲尺を、使ひ馴たる友達と
『直にうら釘かへして後は、ほんに辛気な溝鉋
『互ひに二世と墨さして、誓文楔放れぬなかを
『此頃は聞ばお前はしん手斧、また新店に廻し挽、憎や節木の性悪と
『サア/\是から宗匠先生玉句をうけたまはり度ござる
『発句とやらぼつくとやら、早く聞てへねへサア/\早く/\/\/\
『アヽさな宣ひそ、諸事風雅の狂道は、士農工商の業道までも穿たねばならぬて、エヽ凝ては思案にあたはずと申せば、各々騒がせ給ふな/\、エヽコラツト春風エヽ春風や
『春風や黒羽織に小脇差、さしてゆらり/\と船場へおりやる
『アイヤ甚だ銘酊エ時に景色は未明の事に限りやすね、白昼は埃満々として野暮ものたつぷ、コレ恐るべだね
『あとを慕ふてなまめてこへ/゛\、サアサヤツトヤ
『イヨ/\うつらか/\エ今のアノ茶を売々する翁は、アリヤ只者ぢやごぜへせぬね、浅黄の頭巾引ぬきギツク、本名あるべだねハヽヽヽヽ、サア向ふへ押出やせう
『船ばりしつかと召れた、空には帰る雁の声
『先月の月末か今月の月初めか、木へ往の菜飯に田楽で朝飯とこてへやした、すると未明だから豆富が一夜水中に御逗留、ヤ真平とこたへてとろとけし棹てふものにてヤイ
『早たゞ中へ出にける
『希冀はくは船衆急ぐべだよ
『こちらも急ぐ送り船、程なく着岸
『サア一つ聞し召せ、ところを重ねて
『かほりつん/\花に風、軽く来て吹け酒の泡
『ハヽヽヽヽヽハヽヽヽヽアハヽヽヽヽヲイ笑い嵩じて腹立つて、エヽエすぢをいふべや泣上戸
『サア/\太夫さん、是からお前の番ぢや/\
『是は又迷惑、才蔵仕方がないは、マヅ初春の事ぢやから、お目出たう寿を、さらばお祝ひ申さうと
『鼓おつとり声つくろひ
『やんりや目出度やナア、鶴は千年の名鳥なり、亀は万年のヨ御寿命保つ、鶴にも勝れ亀にも増す、今日此お家をば長者のしんと
『祝ひ栄へましんまする
『建初の柱をばヨ、綾と錦で包ました
『弓と箭をばつけんさせて、是ンは火伏の柱とて
『鬼門を守らせ候へば
『一本の柱が一の宮ヨ
『二本の柱がにせんだか、三本の柱が榊の明神、四本の柱がしろくや天王、五本の柱が牛頭天王
『六本の柱が
『六八幡とや
『七本の柱がが七尾の天神、八本の柱が正八幡、九本の柱が
『熊野三社の大権現とヨ、十本の柱が十羅刹、十一本の柱をばヨ十一面観世音、十二本の柱ヲンハヤ薬師の十二神とよ、千本あまりの柱ヲンハヤおつとり立て欣ばれたり
『誠に目出度う候へける
『みろく十年たつての後、諸神の建てたる御家は
『雨が降れども雨落せず
『風が吹けどもたから風
『ちと吹てはヨウ春風よ、こちらへ吹ては御万歳万歳楽まで祝ふて、千秋繁昌と参り栄へたんまうは
『誠にめでたう
『候へけるとは是からそろ/\万歳
『ヲヤ万歳
『ヱ万歳
『ヲヤ万歳ヱ万歳/\/\/\万歳楽でお欣びだハヽヽヽヽヽヽ
『さん度な/\三度するが舞にて
『あだな舞には候はず
『昔又後白川の法皇の御時に
『コレワイ
『熊野山へ御参第の折柄に
『コレワイ
『諸太夫の装束で
『左折の烏帽子にて
『コレワイ
『その時京都までのぼりては、コレ大内の御門かや
『コレワイ
『お江戸サアへ下りては、コレ将軍様の御門かや
『コレワイ
『旦那さんの御門と三幅は一対にて
『コレワイ
『元日に潔よく開かアヤレきりゝや/\/\
『ヲヤさらり
『ヱさらりヲヤさらり/\/\/\
『さらりさつと才蔵開いたハヽヽヽヽヽヽ
『開いた
『コレいたりはだけたり、是様の御身代は大きな者だでつかいものだに
『コレワイ
『又も取ては目出たきものが参る
『何が/\参る
『お欣びの大判や小判が
『コレワイ
『佐渡で湧た金かや
『お江戸で出来た金かや
『旦那さんへは、ヤレざつく/\にやアざくら
『ヲヤざくら
『ヱざくら
『ヲヤざくら
『ヱざくらざつくらざつと湧て来たハヽヽヽヽヽヽ
『太夫さんあらけねヱ
『コレ銭や金の湧やうだに
『コレハイ是様の御座敷につかみどりが始まる
『子供等も油断するな
『もつこ持たらしよこないこめだに
『コレワイ
『木鉢を持たらすくひ込め
『枡を持たら斗り込め
『美しい姉さんにやア、才蔵なんぞは内証づくなら、五両や三両はさつくれべいに
『コレワイ
『そこらの姉さまのほう/\の廻り、お鼻の廻りおてゞらんでんの出臍の近所の、ヘヽヽヽヽべつちやらこ
『まつちやらこ
『べつちやらこや
『まつちやらこヨイホヽヤレヤレまんしやらこにまんざらこ、万更野暮ではどうした才蔵ありやせまい、
『代々栄へて
『御万の長者よ、尚万歳楽までもやら
『ヱお目出度う
『サア/\是からは総踊/\
『初御空、霞彩る春の山、鶸や駒鳥歌よみ鳥の、囀り/\梅の梢の、下清水姿うつして、我影法師と舞ひ狂ふ、声もしほらし百千鳥
『ともに嬉しき乗合に、声春雨と鳴響く、初雷神に人々は、我家をさしてぞ急ぎ行く

分類番号

00-1331200-n5r2a1a2-0001
データ入力日:2016/05/17

常磐津 乗合船 歌詞