保名(やすな)
深山桜及兼樹振(みやまさくらとどかぬえだぶり)
小袖ものぐるい(こそでものぐるい)
(資料の題名『深山桜及兼樹振』)
『恋よ恋、われ中空になすな恋
『恋風が来ては袂にかいもつれ
『思ふ中をば吹わくる、花に嵐の狂ひてし、心そゞろに何処とも、道行く人に言問へど、岩堰く水と我が胸と、砕けて落る涙には、片敷く袖の片思ひ
『姿もいつか乱髪、誰が取上ていふことも
『菜種の畑に狂ふ蝶、翼交して羨し、野辺の陽炎春草を、素袍袴に踏みしだき、狂ひ/\て来りける
『なんぢや、恋人が其処へいたとは、どれ/\どれ、エヽ復嘘言ふか訳もない
『あれ、あれを今宮の
『来山翁が筆ずさみ、土人形のいろ娘
『高嶺の花を折ることも、泣いた顔せず腹立てず
『悋気もせねば温順しう、あら現無の〔合〕妹背中〔合〕主は忘れて御座んせう
『しかも去年の桜時、植えて初日の初会から、逢ふての後は一日も、便聞かねば気も済まず、うつら/\と夜を明し
『昼寐ぬ程に思ひつめ、偶にあふ夜の嬉しさに〔合〕さゝ事やめて語る夜は、いつよりもつい明易く、去のう去なさぬ口説さへ
『月夜鴉にだまされて、いつそ流して居続は、日の出るまでも夫なりに
『寐やうとすれど寐られねば、寐ぬをうらみの旅の空
〔二上り〕『夜さの泊りは何処が泊りぞ〔合〕草を敷寐の肱枕/\、ひとり明すぞ悲しけれ/\〔合〕葉越の葉越の、まくの内、昔恋しき面影や移香や、その面影に露ばかり
『似た人あらば教へてと、振の小袖を身に添へて、狂ひ乱れて伏沈む
(目次・本文の題名『深山桜及兼樹振(保名)』)
国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」
#変化物 #狂乱物
00-1331211-y1s3n100-0001