題名

初櫓噂高島(はつやぐらうわさのたかしま)

別題

初櫓噂高嶋,三人吉三(はつやぐらうわさのたかしま,さんにんきちざ)

詞章

国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」

(目次の題名『初櫓噂高島(三人吉三)』本文の題名『〔吉三々々の三人は太鼓にかゝる三つ巴〕初櫓噂高島(三人吉三)』)

(作者 河竹新七)

「春の夜に降る泡雪は軽くとも罪科重き身の上に吉三々々も世を忍び派手な姿も色さめて
〔竹本〕「去年の椿の花もろく落て行衛は白妙の
「四つの街や六つの花
〔権十郎〕「思ひ出せば十年以前盗み取られし庚申丸今宵はからず我手に入り
〔粂三郎〕「義理ある弟が失ひしその代金の百両もめぐりめぐつて持ながら
〔権〕「昼は人目を忍ぶ身に夜明ぬ内にとゞけたく
〔粂〕「思ふばかりに行く事のならぬは二人が身がはり首
〔権〕「水のあはれやあらはれて捕虜となりし和尚吉三
〔粂〕「助けたいにも此ごとく
〔権〕「我々二人を捕へんと
〔粂〕「行く先々の木戸をうち
〔権〕「行にゆかれぬ
〔粂〕「今宵のしぎ
〔竹本〕「うしろ見らるゝ落人に軒の氷柱もかげすごく
「ぞとと白刄にあらねども襟につめたき春風は
〔竹本〕「つくばならいか
「ふじみなみ
〔竹本〕「ふゞきいとふて
「エ来りける
〔権〕「やうやく跡の木戸をこしヤレ嬉しやと思ひしに
〔粂〕「又もや爰に締りし木戸
「ふさがるむねのはれやらで星はなけれど雪あかり若しやと顔を見合せて
〔権〕「ヤそこへ来たのはお娘吉三か
〔粂〕「そういふ声はおぼう吉三か
〔権〕「アコレ「あいたかつたと木戸越にすがる手さへもふるはれて
〔竹本〕「まだ春さむくぬくめどり放れ片野によそめには
「いろと見よりのかたつばき
〔権〕「和尚吉三が意見により悪事に染ぬ白糸の心をもとへくりかへし手に入る短刀渡せし上此鎌倉を立退て家名のけがれをすゝぐる簡
〔粂〕「同じ心に百両を親へ渡して是からは男姿に立かへり生れかはつたつもりにて善を尽してなき人の菩提をとはんと思ひしに
〔権〕「天罰二人へめぐり来て行に行かれぬ四つ辻に
〔粂〕「逃るるだけはと思へども今宵の内には
「とらへられ
〔権〕「縄目のはぢに死ぬのも約束
〔粂〕「今さら言つてもかへらぬ事
〔クドキ〕「五つのとしにかどわかされ〔合〕故郷をはなれ旅路にて〔合〕うきとし月を越路がた苦労信濃についいつか欲には迷ふ道のおく
〔竹本〕「立し浮名のしらなみに跡をかくして鎌倉でおなじ吉三に兄弟の結びし縁もうす氷
「くだけてけふはちり/゛\に落せし金の百両は我手に入つて行く事のならぬは何の〔合〕因果ぞや
〔竹本〕「まだ其上に花の兄木咲にまがふ室の梅其身がはりにとらへられ
「散り行く覚悟と聞くからは魁なして救ひし上死なば諸共死出三途
〔竹本〕「思へばこれ迄親たちへ孝行さへもしら玉の身の詫するは冥途でと
「心のねじめあはれにも
〔竹本〕「落つる涙ぞ誠なる
「しばし嘆きに沈みしがふつと目につく櫓の太鼓
〔権〕「ムヽあれにかけたる触書に我々二人を捕へなば合図に櫓の太鼓を打ち四方の木戸を開けとある
〔粂〕「若し又みだりに打ちし者は曲事なりとしるしあれどどうで退れぬ上からは罪に罪を重ぬるとも
〔権〕「四方の木戸を開かせて首尾よく二品渡せし上
〔粂〕「命を捨て和尚吉三を
〔権〕「助けてやらねば義埋がすまぬ
〔粂〕「やはか打たいで置くべきか
「見上る空に吹下ろす夜風に邪魔なふりの袖帯にはさんですそ引あげ登る後にうかゞふ捕手
〔取手〕「ヤア櫓へ登る狼藉者
〔四人〕「動くまいぞ
〔権〕「ムヽ見咎められたら
〔粂〕「もう是迄
「命一つを捨鐘と胸に時打つ左右より
〔竹本〕「打つてかゝるを身をかはし雪に悦ぶ犬ころ投シヤこざかしと前後よりむんずと組付く拍手の人数折重りて
「降積る雪に山なす屋根の上お坊吉三は邪魔させじとさゝゆる捕手を切払ふ刃風に散るや吹雪の花
「すそもほら/\やう/\にお娘吉三が竹梯子〔合〕登ればすべる氷水足におぼへもなく雁の乱れて声もあとや先
〔竹本〕「一皮にかゝるあまたのとり手
「雨はふれ/\ふれ/\小雨濡て嬉しき屋根の上追つ追れつ戯れ〔合〕狂ふ猫の恋路の仇枕ヨイヨイ/\/\よい中を〔合〕うら山しさが塀ごしに覗く柳のみだれ髪
〔竹本〕「手だれの拍手にあしらひかねたぢたぢ/\と庇よりすべり落つれば諸共に逃しはせじと飛下れば此方はなんなく火の見の上撥おつとつて打つ太鼓ひゞきにつれて
「打つたる音に開きし木戸よりも意恨の胸を開かんと和尚吉三は敵の武兵衛逃るやらじと追かけ来る
〔三人〕「何をこしやくな
「雪は降れ/\ふれ/\小雪〔合〕つもる咄しも小家の内追つ追れつ戯れ狂ふ犬も女夫の草枕コイ/\ヨイ/\よい中を〔合〕うら山しさが垣越に覗く梅さへ笑ひ顔ヨイ/\ヨイ/\よいやさ
〔竹本〕「切込むつるぎ打落し訴人の意恨覚へよとなんなく武兵衛を刺殺す折から来かゝる八百屋久兵衛
〔米十郎〕「ヤそちや別れたる忰なるか
〔粂〕「そふいふ声は親父様か
〔米〕「あなたは安守様の若旦那こなたは伝吉殿の息子どのか
〔権〕「さてはお娘が親父といふは屋敷へ出入の八百屋なるか
〔小〕「思ひがけない三人につながる縁の久兵衛殿
〔粂〕「弟が失ふ百両が手に入つたれば
〔権〕「久我家で紛失せし此短刀を弥次兵衛へ
〔米〕「スリヤ噂に聞し庚申丸百両の金が手に入りしかチエヽ忝ない
〔小〕「又も捕手の来らぬ内久兵衛どのには二品を
〔米〕「ヲヽいふにや及ぶ是さへあれば安守のお家再興に水やのお内も再び立ん心残れど長居はおそれ
〔三人〕「少しも早く
〔米〕「ヲヽ合点だ
〔竹本〕「ヲヽ合点と勇み立ち二品携へ久兵衛はとぶが如くにかけり行く
「はや是迄と三人は互に手に手を取かはし
〔小〕「もはや思ひ置く事なし
〔権〕「これまでつくせし悪事の言訳
〔粂〕「我と我手に
〔三人〕「身の成敗
「櫓太鼓の三つ巴めぐる因果と三人が
〔竹本〕「さしちがふたる身の終り
「悪事もきゆる雪どけに
「浮名ばかりぞ残りける。

分類番号

00-1331211-h1t3y1g3-0001
データ入力日:2016/06/03

清元 初櫓噂高島 歌詞