題名

十六夜(いざよい)

本名題

梅柳中宵月(うめやなぎなかもよいづき)

別題

十六夜清心(いざよいせいしん)

詞章

声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年)

(資料の題名『梅柳中宵月』)

(河竹新七述)

『朧夜に星の影さへ二つ三つ、四つか〔合〕五つか鐘の音も〔合〕もしや我身の追手かと、胸に時うつ思ひにて、廓を抜し十六夜が
『落て行衛も白魚の、船の篝に網よりも、人目厭ふてあと先に、心置く霜川端を、風に追れて来りける
『嬉や今の人声は、追手ではなかつたさうな、廓を抜てやう/\と、爰まで来たことは来たれども、行先知ぬ夜の道、何処をあてどに行うぞいの
『暫し佇む上手より〔合〕梅見帰りの船の唄〔合〕
『忍ぶなら/\〔合〕闇の夜は置しやんせ〔合〕月の雲に障りなく〔合〕辛気待宵十六夜の〔合〕うちの首尾はエヽよいとの/\〔合〕
『聞く辻占にいそ/\と、雲脚早き雨空も、思ひがけなく吹晴て、見かはす月の顔と顔
『ヤ十六夜ではないか
『清心様か、逢ひたかつたわいなア
『すがる袂も綻びて、色香こぼるゝ梅の花、流石此方で憎からで
『見ればそなたは只一人、廓を抜て何処へ行のぢや、何処へ行くとは胴欲な、今日御追放と聞た故、ひよつと是限逢れまいかと、思へば人の言事も心にかゝる辻占に、人目を忍んで来た私、何れなりと倶々に、連てのいて下さんせ
『その厚志は忝謝ないが、不図した心の迷いひより、御恩を受し師の坊、お名を汚せし勿体なさ
『たゞ何事もこれ迄は夢と思ひて清心は、今本心にたちかへり
『京へ登つて修行なし、出家得脱する心、そなたは廓へ立帰り、よい客あらば身をまかせ、親へ孝行尽しやいのう
『そりや情ない清心様
『今更言も愚痴ながら、悟る御身に迷ひしは〔合〕蓮の浮気や一寸惚れ〔合〕浮た心ぢやござんせぬ
『弥陀を誓ひに冥府まで、かけて嬉しき袈裟衣〔合〕結びし縁の珠数の緒を〔合〕
『たま/\逢ふに切よとは、仏姿にありながら
『お前は鬼か清心様、聞へぬわいのと取縋り、恨みなげくぞ誠なる
『さういやるは嬉しいが、見る影もない所化あがり、わしに心中立ずとも、思ひ切るのがそなたの為
『そんならどうでも私をば、連てのいては下さんせぬか
『サア悪い事は言ぬ程に、早く廓へ帰りやいの
『そのお言葉が冥土の土産
『岸より覗く青柳の、枝も枝垂て川の面、水に入りなん風情なり
『南無阿弥陀仏
『既に斯よと見えければ、清心慌て抱きとめ
『アヽこれ待つた、早まるな
『イヱ/\放して殺して下さんせ、所詮長らへ居られぬ訳故
『ナニ長らへて居られぬとは
『勤めする身に恥かしい、私やお前の
『ヱヽそんならもしや愚僧が胤を
『アイなア
『ムウアヽ此儘別れて行時は、腹の子迄も闇から闇と、なつて一所に伴はゞ
『廓を抜しそなた故、捕へられなば誘拐
『再び縄目に逢んより、いつそ此場で倶々に
『そんなら死んで下さんすか
『外に思案はないわいの
『ほんに思へば十六夜は〔合〕名よりも年は三つまして、丁度十九の厄年に、我が身も同じ廿五の、此暁曙が別れとは、花を見捨て帰る雁、それは常闇の北の国、これは浄土の西の国、頼むは弥陀の御誓ひ
『南まいだ/\南無阿弥陀
『これが此世の別れかと、互に抱き月影も、またもや曇る雨催ひ
『此世で添れぬ二人が悪縁、死うと覚悟極めし上は
『少しも早う
『南無阿弥陀仏
『西へ向ひて合す手も〔合〕凍る寒さの川淀へ、ざんぶと入るや水鳥の、浮名をあとに残しける

国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」

(目次の題名『梅柳中宵月(清心)』本文の題名『〔朧夜に憎きものは男女の影法師〕梅柳中宵月(清心)』)

国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」

分類番号

00-1331211-a2z1y5a2-0001
データ入力日:2016/05/17

清元 十六夜 歌詞