明烏(下)(あけがらす(げ))
明烏花濡衣(下)(あけがらすはなのぬれぎぬ(げ))
(資料の題名『明烏花濡衣』)
(資料目次に括弧書きで「浦里時次郎」とある)
『折節降り来る雪吹雪、うちには亭主が浦里を、庭の古木に括りつけ、箒おつとり声張上げ
『ヤイ浦里、其の苦しみは心がらだア、総別遊女を折檻して、客を堰くこと客のため、二つには女郎大切身代が猶大事、アノ客もまだ若い人だが、あんまり繁々通はれては、親懸りならば勘当うけ、主持ならば親方の手前、仕損ふは知れた事だ、此のじう年期を切替しも皆あの客のため、此の上は心中するか駆落か、とゞのくゝりは知てある詮索だア、是迄度々言ふても聞入ねへ業欲張奴、アノ時次郎の事をすつぱりと、思ひ切つてしまやアがれ、コレ男共浦里に気をつけい
『と言ひ捨てゝこそ奥に入る
『浦里あとを打ながめ、わかれとなれば今更に、涙にくれて居たりしが
『アノ時さんは何処にどうして居さんす事ぢややら、ま一度顔が見たい逢ひたいわいなア
『昨日の花は今日の夢〔合〕今は我が身につまされて、義理といふ字は是非もなや
『アノ二階で弾く三味線を、聞くにつけても思ひ出す、日外主が居続に、寝衣の儘に引よせて、弾く三味線の面白さ、それに引換え今宵の苦しみ、アヽ味気ない浮世ぢやなア
『好いた男にわしや命でも〔合〕なんの惜しかろぞ露の身の、消えば恨もなきものを
『わしが此の身はどうなるとも
『仮令この身は淡雪と、倶に消ゆるも厭はぬが〔合〕此の世の名残に今一度、逢ひたい見たいとしやくりあげ〔合〕
『狂気の如く心も乱れ、涙の雨に雪とけて、前後正体なかりけり
『男はかねて用意の一ト腰、口に咬へて身を堅め、忍び/\て屋根伝い、見るに浦里嬉しやと、悲しさこはさあぶなさに、可愛と一ト声明がらす、後の浮名や残るらん/\
(目次の題名『明烏花濡衣(明烏)』本文の題名『下の巻』)
国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」
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データ入力日:2016/05/17