時鳥二世契(ほととぎすにせをかけたり)
日章(にっしょう)
(目次の題名『時鳥二世契(日章)』本文の題名『〔月を便の道行に〕時鳥二世契(日章)』)
(作者 勝諺蔵)
「妙なるや法の蓮の花いかだぐぜいの船に法の道いつか迷の雲霧にその身をおほふ濡衣日章とよぶ文字さへも
〔二上り〕「破戒の罪の辻占か日に障のやるせなき思ひは同じ娘気の花とはいへど散果て行なやみたる死出の旅
〔竹松〕「恋しいお方は添はれぬも
〔家橘〕「思へばうすき
〔両人〕「ゑにしじやナア
「心一つにふた道をかけてなく音の時鳥めいどの鳥と聞くからにあの世へ急ぐしるべぞと思ひ入るさの月代も只さへ晴れぬ朧夜に胸に闇路を行なやみ橋のたもとに尽せぬ縁
〔竹〕「ヤあなたは日章さまか
〔家〕「そなたはおはな。さらばじや
「さらばと計り日章が行んとするを引とゞめ
〔家〕「すこしはふびんもかゝらうけれど
「そなたと死なば心中と世界へ浮名が立つならば
〔竹〕「死なば諸共とかくごは極てゐますわいなア
〔クドキ〕「いふも便なさ事ながら御出家様の戒にも女子の手から物とれば五百生の其間手の無いものに生るゝと聞てはゐれど何のその
〔ヲトス〕「すまぬ恋路も墨染の衣かたしき〔合〕縁の糸〔合〕
「経読鳥にあらねども初音嬉しき床の内別れ惜んで長房のしんき真紅の紐とけて〔合〕
「結ぶもかたい約束を今更一人ながらへてゐよとは何の七文字とくどき歎くぞ道理なる
〔竹〕「日章さま
〔家〕「お花殿
〔竹〕「おうれしうござんすはいナア
「色には心乱れあふわりなき中ぞいぢらしき〔合〕
「折もこそあれ向ふより〔合〕祖師の利益を仮宅の〔合〕ぞめき半分〔合〕深川へ〔合〕朝参りとはお若いに〔合〕よく御信心清浄なほんに中よい二人づれ団扇太鼓の拍子よく〔合〕浮れ/\て来りける
「死んで花実はさかぬわい
「よく道行の口説にも蓮の台の新世帯そんなあぶない台より二人手を取りしつぽりと根岸を過ぎて日ぐらしが夫婦ぐらし片田舎機も織り候賃仕事おかるきどりでやらしやんせ又も二人に目を付けて
〔小團次〕「なんでもごりやくは有難い
〔左團次〕「南無妙法蓮華経々々々々々々々
「恐れ多くも尊くも抑高祖大聖人難行苦行の其内に大難四ヶ度小難はかず白浪に題目をかゝせ給ふが佐度やさぞ人目たつたの龍の口片瀬かたりも御利盆でめくらが目をあくいざりがかけ出すそりやこそ唖が経よむ〔合〕どんつくどん自我偈ぢがねの信者とて意見まじりに鳴る鐘も夜明け間近き鶏の声
〔両人〕「サアゆるりトなりませ
「心残して別人は立つ蝋燭のしんよりも真身の意見そこ/\に太鼓ならして急ぎ行く
「二人は跡を打見やり
〔竹〕「日章さま
〔家〕「仕度しや
〔竹〕「アイ
「南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経南無とかくごはしながらも是が別れといだきつき
〔竹〕「そうじや
「合掌なして水の面此世の名残となりふりもそゞろに川へ飛び込むお花こなたも共に後れじと又もとび込む日章が袖にからまるもやいの棒杭
「死に遅れたる日章がほつと一いきためらふ内上手へ登るせうじ船
「恋するも楽みするもお互に世にある内と思はんせ〔合〕死んで花実もやぼらしい実に誠と思はんせ〔合〕
〔家〕「此日章へ意見の辻占。こりやめつたには死なれぬはへ
「心かはれば死神のはなれて吐息月の顔
「れんぼのやみの雲晴れて空さへかはる夏の夜の短きゑにしぞはかなけれ。
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データ入力日:2016/06/03