桜狩(さくらがり)
『長閑なる頃も如月おしなべて、柳の糸も浅緑、吉野よく見し人はいざ、馴し東の都鳥
『太宮人もあこがるゝ、隅田河原の春景色、曙染やほの/゛\と、霞か空か咲く花の、雲の中ゆく桜狩
『蝶鳥の羽袖も薫る花の蔭、人の心も浮き立ちて、花を翳しの袂より、潜る燕の可愛らし、見飽かぬ空を行く雁の、誰がまつちやら向越し、憎い心ぢやないかいな
『其の昔ありしも恋の手引草、誓も深き奥山に根ごして植し初桜、色香を送る春風に、馬道越して通ふ駕籠、三枚四枚衣紋坂、早や大門と夕桜、気高き花の粧ひに、松の位の外八文字、実に此の里の春の宵、桂男の俤も、霞める空の朧月
『初恋の花もの言はぬ習しに、思ひざしなる武蔵野も、誰が手にふれし盃の影にこぼるゝ愛嬌は、いとしらしさの花紅葉、濃いも薄いもこき交ぜて、寿海猿若とり/゛\に、はやす羽織の曲舞は、君が笑顔の半開と、心の駒や勇むらん
『面白や花の友垣ひと群に、眺つきせぬ春遊び、尚いつまでも長唄の、道の栄を祝しけり
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