題名

桜艶色鳴神(ゆめみぐさいろになるかみ)

詞章

国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」

(作者 三枡屋四郎)

「わけ迷ふ山路にかゝる妄執の〔合〕雲かと見れば煩悩の霧まだ深き有明の朱をあらそふ衣手に御法の香の薄煙遠山寺の鐘さへる寂寞として静かなり
「また踏わくる道芝の沓音高く壇場へ時もたがへず登らるゝ実にも修匠に見へにけり〔合〕
「かゝる山路も後の世の〔合〕たよりときけば当麻もる〔合〕松の落葉を袖ぎてう覆へど人やとがむらん
〔二上り〕「夕山ざくらちりてさへ〔合〕妻としいへば山鳥の肩にかけまくいつの世にあひ見ん事はまつ虫になく音もほそき歌念仏〔合〕
「なまいだなまいだ/\/\/\/\
「せうごの撞木瀧津瀬に。いとゞあはれやひゞくらん
「上人耳をかたむけて
「世にたよりなきうき事のうき世の中を住詫びしやもめ女に候ぞや
「またくりかへす百八の数珠のたまの緒たへかぬる輪廻を不憫と上人も
「見渡せば柳さくらをこきまぜて都ぞ春の錦なる〔合〕まづ東には音羽山雪に見まがふ花吹雪大悲のちかひ清水の車やどりや駒とゞめ思ひ/\のだて衣裳
「地主のさくらの幕うちまわしこゝでは琴の音かしこでは三味線胡弓つゞみのしらべ心うきたつ連弾きに
「初花の露の情のいささめに〔合〕逢ふた思ひか今更にアヽなんとせう何か舞ふやら唄ふやらたまつたものではないはいなア
「かほり高き紅梅のそのいろ紙につやかけし硯の墨の筆そめてさら/\/\とはしりがき
「小笹春草おしわけて露もつ嵯峨のかぐれ里おに一口もなんのその色の世界であるまいかそれが思ひのたねとやら
〔クドキ〕「ほんに女子はそれ程に思はせぶりかうつり気か〔合〕宵は寝もせであかつきはまどろむひまもわすれじの〔カン〕行末とけぬ仇ぼれとさきでひぞればはづかしながらほれた顔をば見せまじと
「そりや逆さまな恋すてふ逢ふせ嬉しき花のもと〔合〕忘れかねたるお姿に
〔カン〕「つもる思ひの嵯峨の奥やつと来たものあんまりと取付く袂を振はなし外面女菩薩内証にどんなうき名があるやらとつめつたゝいつ立しほの
「ふたつ枕のあつかひに月もいるさの夜あけのからすかはいかはいとだきしめてついそのまゝでに
「はなしにつれて鳴紳は壇上より真逆さまどうと落つれば
「正気つかねば当麻姫こゝぞ大事と滝の水手にくみあげて口にくゝみ鳴神の口うつしむね押明けて肌とはだ
「声を限りに呼び生ぐればムヽと一卜いき吹かへし
「始終を聞て鳴神面色かはつて眉をひそめ
「怒の声はこだまにひゞき梢木の間も動揺する姫は胸を押鎮め
「涙はまだき風情なり
「さらばとばかり瀧つぼへ身を沈めんとかけ寄るを
「でんぶたまらぬ姉様をくり/\坊主にするめとはころもをかけたやたい見世あつたらものやと急ぎ行く
「ヨウよい嫁御だいて寝じやかの床いそぎ師匠がしめるかあぶなもの坊主があたまもあぶなものこれから夜道もあぶなものものかず言ふたらお目玉とおどけまじりに山道をふもとのかたへかけり行く
「思ひきつてさし込む手さき振はなさんと身をもむをじつと抱きしめ放さばこそ
「気色変つて額に汗おへども去らぬ煩悩の付けまはしたる破戒の有様気も魂も身にそはず
「さす盃の御じゆかい飲みほしてそばに置き
「さくら匂へど色ごろもうつりやすさよ袖のつゆ
「次第にまはる酒のとが膝にもたれて
「あしたにかはる逆鱗を蒙りはてしも誰故ぞさかしら人のうらめしく世は捨れども凡夫心
「念力こつては藤かづらを八重のくさりと取すがりすそにまつはる岩つゝじはぎもあらはに身もふるい〔合〕かよはき力によう/\と仏陀のめぐみ神の加護瀧のほとりに攀ぢ登ればさも物すごき身の毛だつ心をおさめ鎮守の宮
「祈念と共に御剱にて瀧の注連縄ふつと切れば
「不思議や一天かきくもり大雨しきりに車軸を流し金龍瀧を飛去つて山は震動はたゝ神天魔の法力烈女のいさおし〔合〕いどみあらそふ有様を筆につたへて残しけり江戸のめぐみぞ有難き。

分類番号

00-1331211-y3m4m2g3-0001
データ入力日:2016/06/03

清元 桜艶色鳴神 歌詞