題名

権下(ごんげ)

本名題

其小唄夢廓(下)(そのこうたゆめもよしはら(げ))

詞章

声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年)

(資料の題名『其小唄夢廓』)
(目次には括弧書きで「小紫権八」とある)

(福森亭宇助述)

『間夫と言ふも〔合〕里の名〔合〕客と言ふも里の名、嘘と誠の分隔て
『それも鳴く音の黄鳥も〔合〕梅に三浦の小紫、粹な由縁と我ながら、わがつま琴とかき鳴す、思のたけの尺八も〔合〕恋慕流は権八が〔合〕一ト夜切とは気にかゝり、又黄鍾の調子とて、合せられても春の夜の〔合〕夢もさながら合の手に、強て見せたる瘤柳、煙る柳の煙草盆、互に引合ひ顔反向け、身を反向けたる風見草
『コレイナア権八さん、最前までも今までも、機嫌ようして居ながら、何故にマア其の様に
『腹が立たいで何とせう、最前白柄とやらが相方になつたとの事
『アレマアそんな廻り気ばつかり
『コリヤぬかし居るなヱヽおのれはなア
『人の心と飛鳥川、今日の今まで其の様な、うつり心の紐鏡、冷い心は
『オヽ夫れよ〔合〕女郎の誠と玉子の四角、泣いて〔合〕だまして綾なして、嘘つきそめて正月か、男をかける輪飾は〔合〕よくとく棚の恵方から、ちく大黒が御座つた〔合〕踊もつて御座つた、口から出ほう大黒舞、天てれん女郎の能には、一に〔合〕たはけの文まくら〔合〕二に二世かけた張もなく、三にさながら仇惚の、欲大黒を見さいな
『さう言んすりやこちからも、それが男の徳若に、御全盛とてわしに逆ひましんます〔合〕客立帰る旦より、水ももらさず〔合〕相惚の、誠の色にてさふらひける
『それに其の様な胴欲な〔合〕若水臭い強言葉、辛い勤の其の内に〔合〕情は売れど心まで〔合〕売らぬ私が苦界の誠、縁にひかれて破魔弓の、やがて廓の年あけて〔合〕名も呼び変へておかもじと、楽しむ甲斐も七草と、畳たゝいて泣く涙、目も春雨にそめぬらん
『オヽ其の親切は忝けないが、最前よりつれない仕なしは、縁にひかれてそなたを憂目にあはせまいため
『エそりや何と言はしやんす
『サア仔細あつて多くの金子調達せねばならぬ権八、身を捨てこそ浮む瀬と、心に思はぬ悪事のさま/゛\、同類の本目丈八が心変り、若しも彼奴めに訴人されなば、いつぞや見しが正夢にて、刑罪にあふは知れた事
『エヽそんならせんどの夢が正夢で
『愛想がつきたか、小紫さらばぢや
『アヽモシ何の斯うなつたら、死ぬるも生るもかねての約束
『スリヤ立退なら一所に行か
『サア立退までもお前のまへふり、人目にたてば何卒まア
『如何さま姿でも変へ、逃かくるゝと世の嘲弄も、望のかなふまでの辛棒
『そんなら得心して下さんすか
『如何にも
『嬉しう御座んす、幸ひこゝに此の鏡台、千筋と撫でし前髪も
『剃らねばならぬ男なり
『胸の鏡もかき曇る、涙に櫛笥とり添て
『心の内の乱れ髪
『結ひ直してあぎやうないなア
『散ればこそ、身に降り積る花吹雪〔合〕儚き縁の合せ砥に、斯かる思ひの〔合〕あらうとは〔合〕神ならぬ身の権八が、祝ふて落す前髪を、涙で揉んで剃落す、向ふ鏡に小紫〔合〕男なりせし面影を、見かはす袖も比翼塚、後の浮名や残るらん/\

国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」

(目次の題名『其小唄夢廓』(権八)本文の題名『下の巻』)

国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」

分類番号

00-1331211-g5n0g400-0001
データ入力日:2016/05/17

清元 権下 歌詞