題名

橋弁慶(はしべんけい)

詞章

声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第2編 長唄集(明治42年)

『是は西塔の傍に住む、武蔵坊弁慶にて候、我宿願の仔細あるにより、此の程北野へ、丑の時詣仕りて候、又今夜より十禅寺へ、参らばやと存じ候、如何に誰かある
『御前に候
『今夜より十禅寺へ参らうずるぞ、供仕り候へ
『今夜は御止りあれかしと存じ候
『何とて左様には申すぞ
『昨日夜更て五条の端を通り候へば、十二三なる稚き者、小太刀をもつて切てまはり候は、さながら蝶鳥の如くにて候
『左様の者あらば、何とて討たざりけるぞ
『討たんとすれば逐ひ払ひ、手元を敵へ寄せず候
『仮令手元へよせずとも、大勢にては討つべきに、追取り込むれば
『不思議に外れ
『間近くよれば
『目にも
『見えず
『神変不思議奇特なる、都広しといふとも、それ程の者あらじ、実に奇体なる事かな
『十禅寺詣をば、思ひ止まらうずるにて候
『然るべく候
『いゝや弁慶ほどの者が、聞逃しては叶ふまじ、今宵更けなば橋に出て、化生の者を平げんと
『夕程なく暮方の/\雲の景色もひきかへて、風すさまじく更る夜を、遅しとこそは待ち居たれ/\〔合〕
『扨も牛若は母の仰の重けれど、明なば寺へ登るべし、今宵ばかりの名残ぞと、月の光に眺むれば、面白の景色かな、そゞろ浮立つ我が心、五条の橋の橋板を、とゞろ/゛\と踏み鳴らし、通る人をぞ待ち居たる
『已に夜を待つ時も来て、山塔の鐘もすぎ間の月影に〔合〕
『着たる鎧は黒革の、縅におどしゝ大鎧、草摺長に着なしつゝ、元より好む大薙刀〔合〕
『真中取て打ちかつぎ〔合〕
『ゆらり/\と出でたる粧、如何なる天魔鬼神なりとも、面を向くべきやうあらじと、我身ながらも物頼もしく、手に立つ者のあれかしと、五条の橋板ふみならし、心凄げに歩みしが
『薄衣かづき立給ふを
『弁慶見付て〔合〕
『言葉をかけんと思へども
『彼は女の姿なり
『我は出家の事なれば、思ひ患ひ過ぎ行けば
『牛若彼をなぶりて見んと、行違ひさまに薙刀の、柄をはつしと蹴あぐれば
『スハ徒者よ物見せんと、薙刀やがて取直し、切てかゝれば
『牛若は少しも騒がず〔合〕
『太刀抜き放ち〔合〕
『つめつ
『ひらいつ
『戦ひしが
『たゝみ重ねて打つ太刀に
『さしもの弁慶合はせかね、橋桁を二三間、しさつて肝をぞ消したりける
『もの/\しやと薙刀を、柄長く取り延べ走り寄り〔合〕
『てうと打てば
『飛び違ふ
『裾を払へは
『おどり上り〔合〕
『宙をはらへば
『頭を地につけ〔合〕
『千々に戦ふ
『大薙刀うち落されて力なく、組んとすれば
『切り払ふ
『詮方なくて弁慶は奇体なる小人かなと、あきれ果てぞ立たりける
『不思議や御身は如何なれば、斯程健気にましますぞ
『我は源の牛若なり、さて汝は
『西塔の武蔵坊弁慶なりと
『名乗り合ひ
『降参申さん御免なれ
『今より三世の主従ぞと
『契約かたく仕り
『薄衣かつがせ奉り、弁慶は薙刀を打かつぎ、九条の御殿へ参りける

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#判官物

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データ入力日:2016/05/16

長唄 橋弁慶 歌詞