題名

浅間(あさま)

本名題

初霞浅間嶽(はつがすみあさまがたけ)

詞章

国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」

(目次の題名『初霞浅間嶽(浅間)』本文の題名『〔いにしへを思ひいづもの其侭に〕初霞浅間嶽(浅間)』

〔ウタヒ〕「あはれいにしへを。思ひ出づればなつかしや。ゆく年月に関あれば。花に嵐の。関守も〔地〕よひ/\毎の自雪は茜さす日にとけて行く。いもせの中のうらみ事昨日の露とはかなくも。〔合〕消えて此世になきつまの。胸に思ひの煙りとは
「香のかほりにひかれくるたまは昔のひとつまへ。ありしくるわの其侭に奥州が〔合〕〔カン〕立姿。
〔菊五郎出〕〔二上り〕「恨も恋も残りねの若しや心のかはりやせんと思ふ。疑ひ晴さん為の誓紙をば。なぜに〔合〕煙りとなし給ふ恨めしや〔合〕早くも。かはる飛鳥川昨日の誠今日のうそ。なげのなさけの恨をも言はでこがるゝ胸の火の煙くらべん浅間山。
「祐俊は心付き
〔海老蔵〕「ヤア/\/\そなたは奥州じやないか。どふしてマアこゝへはおじやつたぞいの
〔菊〕「サアわたしはお前にお別れ申してより。さがない人の手にかゝつて。浅ましい身の上になりましたはいな。さは去りながら。只忘られぬは互の恋路。お顔が見たい。恋しい床しいなつかしい。思ひこがれて。是迄参りましたはいの
〔海老〕「ヲヽよふ来てたもつたのふ。アノそなたは人手にかへつて死にやつたによつて。おりやもふ大抵や大方案じて居たのに。マアよふ顔見せに来てたもつたのふ
〔菊〕「わたしは此様に思ふては居れど水くさいはお前のお心。ほんにあんまり
〔海老〕「ソリヤ何がいのふ
〔菊〕「何かとはアレあの
〔海老〕「エヽ起請の事か
〔菊〕「アイナア
「あさい心と白糸のそめて。くやしきなれごろも。ありしながらのひとつまへ小づまそろへて。しどけなく〔合〕
「風に柳の。吹くまゝに任せる筈の勤じやとても〔合〕いやな客にも比翼ござ〔合〕思ふ。男の山鳥の〔合〕
「おろの鏡のかげをだに。見ぬ日にくもる薄月夜。
〔カン〕ねやの障子に涕もれて。もれて浮名の流れて末は〔合〕。ついのよる瀬の浪枕〔タヽキ〕かはるまいぞや〔合〕
「かはらじと
「筆に誓ひの神かけて〔合〕墨と硯のこい中を〔合〕たが水さしてぬれ衣の。なき名を立て無理な事。
「夕べの床の夜すがらに背中そむけて物言はぬ〔合〕
「しゞまのかねの煙草盆きせるにとがのあるかいな。こち向んせと寄り添へばぴんとふり切る袖の香は〔合〕
「たれと寝て来た移り香と
「しらべのいとのむなづくし。鶏のなくまで口舌して
「つめりし跡がこれこゝに紫式部が筆のあや。女の上の品定めも悋気は下品下生ぞやハヽいたらぬ/\コレ/\奥州もふそなたも其野暮はぬけそふなものじやぞや。ちつと粋になりや/\
〔菊〕「なんば其やうに言はしやんしてもうつもやつて置たなら悪性のしあきであらふ。ほんに油断がならぬはいなア
〔海老〕「ソリヤたれがいのふ
〔菊〕「アノおまへが
〔海老〕「何と
〔菊〕「これ
「じつとひきよせ。引寄せて。ほんにまあ
「につくいおさんがおるはいな〔合〕此頃のしなしぶり
「聞たよすがもよしそれとても。花ぞめの
〔カン〕「うつろいやすきくせじやもの。露のかごとのたのしみならば〔合〕だんない/\せきやせぬとたしなんで見ても落付かぬ
「心のこまの。みだれがみ。ゆふに。いはれずいへばゑに。かける/\と口くせに言ふた。おまへにかけられて。のぼりつめたる恋の山。うき名いとふも初ての事〔合〕
「いひたてられて
「うたはれて
〔ハシル〕「わざくればしの名にたどる
〔三下り〕「首尾のあいづの箱ばしご〔合〕手くだになれしうちかけの下に流るゝいさや川。わが名もらすな。つげわたる。八声のとりのとり/\に。よそはきぬ/\是からがまぶのひるじやと短夜を。夢も結ばぬむつごとに。うらみいふたり笑ふたり別れに立てしせいもんは〔合〕千も二千も三千も〔合〕世界に一人の男じやとたのしむ中を。むらくものにくや思はぬうたがひに。あかぬわかれの浮世の名残。鴛鴦恋のつるぎ羽われからと〔合〕つらぬきとめし玉の緒の〔合〕
「くるしい〔合〕
「悲しい
「口惜しい〔合〕だまされた身は何がなるしかも其日のめぐり来て。きやうと知らでや忘れてやせめて未来は違ひなく蓮の台に。ふたりねの〔合〕かはる枕のかず/\に〔合〕
「ゆびきり
「かみきり
「いつはりの。起請の血汐は紅蓮のなみ。うそのなみだのみづまさる。三途の川のからくれなゐ。剱の山は此世からわれとつらぬく刃の苦しみ。ひとの思ひにあこがれて此身をこがす焦熱の。炎のせめも諸共に。ならくの底のそこ迄も〔合〕はなれはせじとつきまとひくるりくる/\くる/\と。おひめぐり追ひめぐり〔合〕輪廻のくるま煩悩の。きづなにひかるゝわがたまを。むすびとゞめよしたがひの〔合〕つまよ/\と呼びかはすこゑもみだるゝおぼろかげ見へず見へずみ〔合〕まぼろしの姿は消えてかげろふの。花檀に飛こふ秋のてふ手にも取られずちら/\ちら〔合〕風に乱るゝおしろいもはねに残して草がぐれ。

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#浅間物

分類番号

00-1331211-a1s1m100-0001
データ入力日:2016/06/03

清元 浅間 歌詞