題名

由縁の暦歌(ゆかりのこよみうた)

詞章

声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年)

(資料目次に括弧書きで「おさん茂兵衛」とある)

(福森亭宇助述)

『おさん茂兵衛が中々は〔合〕実と誠を立て通す、柱暦も紙破れて
『やぶれかぶれとなる鐘も、たしか上野か浅からぬ〔合〕契も今は切文に〔合〕はや気もせきの業物を、心のねたば其の人の〔合〕行方尋ねて相惚れと
『おさんも同じ濡羽鳥〔合〕
『塒を出でゝしよんぼりと、世を秋雨の傘も〔合〕人目しのんであやぶ日、夫れも何故のきさりを、不義ぢやのなんの〔合〕かのへ申〔合〕
『けふはあしたのきのへ子と、知らでかはせし事始め
『その姫初め引かへて、今は命もほろぶ日、日も長かれと願ふたる〔合〕
『八十八夜は及びなき、年は十九と二十五を、名残の霜と見あぐれば〔合〕空はくろ日の暗き夜に、互の心すれ違ふ、雲の脚さへ行逢ふて〔合〕恋路の闇に迷ふ身の、はれて嬉しき月の顔
『ヤアおさんか
『茂兵衛さんか
『エヽおのれはなア/\、角太郎が方へ失ると親方からのアノ切文、今更さうして済まうと思ふか
『サア済まぬと言ふて、私や真実角太郎さんに
『いよ/\惚れて失る気か
『アイ知れた事いな
『心変りを聞くよりも、茂兵衛はせきに関の孫六、抜く手も見せずアイ思ひ知れよと言ふ間もしらは〔合〕此方は覚悟の心届いて落散る書置、目も月明り取あぐるを、やらじととめる女気も、かよはき腕の蔦かつら、尽ぬ縁のよみおくり
『スリヤ此の書置にあるを見れば、此の茂兵衛が難儀となつたる、曼陀羅をとり返さんため、心にもないアノ切文、愛想づかしを言つたのも、此の茂兵衛が手にかゝり
『死ぬる心でござんすわいなア
『其の心底を聞く上は、茂兵衛とても生て居られぬ人殺し
『そんなら一所に死んで下さんすか
『女房へ義理も世の噂も
『捨てゝ冥土の旅の空
『おさん仕度しや
『アイ
〔二上り〕『奇妙頂礼地蔵尊〔合〕あくしゆに出現したまひて、衆生の済度をなしたまふ、なまいだ/\
『南無と覚悟はしながらも、又もや愚痴をくる数珠の、玉もおさんが気にかゝる〔合〕お内儀さんへ言訳も、夏の半の涼み舟〔合〕縁の橋間で逢ひ初て〔合〕外のお客は何のその、秋の七草ならねども〔合〕
『花の色香とそやされて、惚れた証拠の言ひがゝり〔合〕きかぬ起請も取り替し、恋にうきみを入黒子〔合〕茂兵衛命と掛香も、夫れさへ消えて仇し野の、露となる身ぢやないかいな〔合〕只何事も堪忍と、流石茂兵衛も倶涙、弱る心を取直し、互に覚悟の桜が馬場、既に散り行く其の所へ
『船頭佐吉は駆け来り
『お二人ながら死ぬには及ばぬ、おさんさまの切文で、才三が盗んだ曼陀羅は、喜蔵様の手に入りましたぞ
『スリヤ宝は手に入つたか
『何も彼も埒が明いて、お二人ともに添はれまするぞ
『エヽ忝けない
『今日の知死後をひきかへて〔合〕時を恵方のよろづよく、おさん茂兵衛が暦歌、由縁の末ぞ目出度けれ

国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」

(目次の題名『由縁の暦歌(おさん茂兵衛)』本文の題名『〔おさん/茂茂栄〕由縁の暦歌』)

国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」

分類番号

00-1331211-y3k1r2n5-0001
データ入力日:2016/05/17

清元 由縁の暦歌 歌詞