題名

累(かさね)

本名題

色彩間刈豆(いろもようちょっとかりまめ)

詞章

声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年)

(資料の題名『色彩間刈豆』)
(目次に括弧書きで「累与右衛門」とある)

(松井幸三述)

『思ひをも〔合〕心も人に染ばこそ、恋と夕顔夏草の〔合〕消ゆる間近き末の露、元の雫や世の中の、遅れ先立つ二道を
『同じ思に跡先の、別ちしどけも夏紅葉、梢の雨や〔合〕さめやらぬ、夢の浮世と行なやむ、男に丁度青日傘〔合〕骨になるとも何のその、跡を逢ふ瀬の女気に〔合〕恐い道さへ〔合〕やう/\と、互に忍ぶ野辺の草〔合〕葉末の露か〔合〕蛍火も
『若し、追手かと身繕ひ心関屋も跡になし、木下川堤につきにけり
『これ累、思ひ掛ない所へ、そなたは如何して来やつたぞ
『どうしてとは胴欲な、一所に死あうと言替したをお前一人覚悟の書置、一所に殺して下さんせいな
『切なる心は尤なれど、そなたの養父は預りの、撫子の茶入紛失故、殿様よりお咎うけ、夫さへあるにそなたと死んでは親への不孝、思ひあきらめ爰から早う帰つてたも
『言ふ顔つくづく打守り、ひよんな縁で此様に〔合〕つい斯うなつた〔合〕中ぢや故〔合〕
『勿体ない事ながら、去年の初秋盂蘭盆に、祐念さまのお十念、その時ふつと〔合〕見染めたが〔合〕
『ほんに結ぶの神ならで、仏の庭の新枕、初手から蓮の台とぞ〔合〕心で祝ふ菩提心、後生大事の殿御ぢやと〔合〕
『奥の勤の長局、役者贔屓の噂にも、どこやら風が成田屋を〔合〕
『お前によそへて楽しむ心、打交りたる騒ぎ歌〔合〕
『入墨子/\、起請誓紙は反古にもなろが〔合〕五月六月は万更反古にもなりやせない
『唄ふ辻占今の身に、当りて私が恥かしと、跡言ひさして口籠る
『ハテ是非に及ばぬ、夫程までに思ひ詰たそなたの心、可愛や腹の忰まで、此儘殺すも世の成行、不愍の者の心やなア
『深き心を白玉の、露の命を我故に〔合〕思へば便なき心やと〔合〕手を取りかはし歎きしが、せめて義理ある親達や、生の親へも他処ながら〔合〕今宵限の暇乞〔合〕不孝の罪は幾重にも、お許しあれと諸共に、川辺に暫し泣き居たる
『不思議や流に漂ふ髑髏、助が魂魄錆つく鎌、夫と見るより与右衛門が、心に覚あり/\と、しるしの鎌を引抜けば、ハツト累が美はしき、顔も忽ち悪女の相好、是も報か浅ましやと、立退く裳裾にとりついて
『それそのやうに他処外に、深い楽しみあればこそ、私をだまして胴欲な〔合〕
『若しやにかゝる恋の欲、兎角浮世が儘にもならば
『帯のやの字を前垂に、針打やめておとしばら〔合〕
『駒下駄はいて歩いたら、誠に/\〔合〕嬉しかろ〔合〕
『ならぬ先迄思ふのも、今更身で身が恥かしい、むごいわいのと取付て、変る姿を露知らず、色を含みしとりなりは、哀れにも又いぢらしや
『道理/\死ると言ふは皆詐り、国へ帰参の此の与右衛門、足手まとひと思へども、そなたを連てこれより直に
『そんなら一所に
『サアおじや
『いそ/\先へ忽ちに、邪慳の刃血汐の紅葉、龍田の川の瀬と変る、男の裾にしがみつき
『コリヤ私を誑して
『オヽ殺すのだ、仔細と言は是を見よと鏡に写せば
『エヽヤヽヽヽコリヤマア如何して此のやうに、私の顔が変りしはエヽ口惜しい
『コリヤ累、因果の道理をよつく聞け、汝が為には実の親、菊が夫の助を殺した其の報、廻り/\て其の顔の、変り果たは前世の約束、此の与右衛門は親の敵、これも因果とあきらめて
『成仏せよと無二無三、打つてかゝれば身をかはし
『のふ情なや恨めしや〔合〕身は煩悩の絆にて〔合〕恋路に迷ひ親への仇なる人と知ずして、悋気嫉妬の口説言、我と我が身に惚れ過ぎし〔合〕心のうちの面なや〔合〕辛き心は先の世の、如何なる恨かいまはしと〔合〕
『口説いつ泣いつ身を掻むしり、人の報のあるものか〔合〕なきものか、思ひ知れやとすつくと立ち〔合〕振乱したる黒髪は此世からなる鬼女のありさま〔合〕つかみかゝれば与右衛門も、鎌取直して〔合〕土橋の上〔合〕襟髪つかんで一ト抉り〔合〕情用捨も夏の霜、消ゆる姿の八重撫子〔合〕これや累の名なるべし、後に伝へし物語、恐しかりける次第なり

国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」

(目次・本文の題名『色彩間刈豆(かさね)』)

国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」

分類番号

00-1331211-k1s1n400-0001
データ入力日:2016/05/17

清元 累 歌詞