題名

綱館(つなやかた)

本名題

渡辺綱館の段(わたなべのつなやかたのだん)

別題

綱館の段(つなやかたのだん)

詞章

声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第2編 長唄集(明治42年)

(稀音家照海作)

『去る程に渡辺の源治綱は、九条羅生門にて鬼神の腕を切り取りつゝ、武勇を天下に輝かせり、さりながら斯かる悪鬼は七日の内に、必ず仇をなすなりと、陰陽の博士晴明が考文にまかせつゝ、綱は七日の物忌して、仁王経を読誦なし、門戸を閉ぢてぞ居たりける
〔ワキ〕『すでに東寺羅生門の、鬼神の腕を切り取りしこと、是偏に君の御威徳ならずや、然るに晴明が考文に随ひ、あら気詰りの物忌やな
〔シテ〕『かゝる所へ津の国の、渡辺の里よりも、尋ねて伯母の北時雨〔合〕
『紅葉の笠も名に愛でゝ〔合〕
『錦をかざす古郷の〔合〕
『老の力や杖つきの字の姿をも〔合〕
『うしとは言はでひかれつる、綱が館に着にけり
『門の外面に佇みて
〔シテ〕『いかに綱津の国の伯母がはる/゛\参りたり、此の門開き候へとく明け召されい
〔ワキ〕『内には綱の声高く、はる/゛\との御出なれど、仔細あつて物忌なれば、門の内へはかなはず候
〔シテ〕『何門の内へは叶はぬとな
〔ワキ〕『是非に及ばず候
〔シテ〕『あら曲もなき御事やな、和殿が幼き其の時は〔合〕
『自ら抱き育てつゝ、〔合〕
『九夏三伏の暑き日は、扇の風にて凌がせつ、厳冬素雪の寒き夜は〔合〕
『襖を重ね煖めて、和殿を綱と言はせし事、皆自が恩ならずや、恩を知らぬは人ならず、エヽ汝は邪慳者かなと、声を上げてぞ泣き給ふ
〔ワキ〕『さしも猛き渡辺も、あくまで伯母に口説かれて、是非なく門を押し開き、奥の一間へ招じける
〔シテ〕『いやとよ綱鬼神の腕を切りとられし武勇の程、凡天下に隠れなし、して其の腕は何れにありや
〔ワキ〕『即ち是にと唐櫃の、蓋打明て伯母の前にぞ直しける
〔シテ〕『其の時伯母は彼の腕を、ためつすがめつ繁々と、眺め/\て居たりしが、次第/\に面色変り、かの腕を取るよと見えしが忽に、鬼神となつて飛上り〔合〕
『破風を蹴破り現れ出で、四辺を睨みし有様は身の毛もよだつ許りなり〔合〕
『いかに綱我こそ茨木童子なり、我が腕を取返さん其の為に、是まで来ると知ざるや
『綱は怒りて早足を踏み〔合〕
『斬らんとすれども〔合〕
『虚空に在り〔合〕
『いかにかなして打取るべしと〔合〕
『思へど次第に黒雲掩ひ、鬼神の姿は消失せければ、彼の晴明が考文に背きし事の口惜さよ、猶時を得て打取るべしと、勇み立たる武勇の程〔合〕
『感ぜぬ者こそなかりけれ

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00-2310000-t3n1y1k1-0001
データ入力日:2016/05/16

長唄 綱館 歌詞