題名

藪椿誰転寝(やぶつばきたれところびね)

詞章

声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年)

(狂言堂左交述)

『いつまで草のいつかさて、思を干さん衣手の、森の下露起きもせず、寐もせで夜半のかね言を、数へてつもる憂き恋の、山井の底の深緑
『忍ぶ返事は跡ひかぬ、駒下駄さへも抜足の、温順やかに急ぎ行く
『いだせば漸く手を延紙に、こま/\文の紅筆を、ひと目見るより飛立つ思
『情も人の為ならず、あなたの御病気一日も、早う本腹させ申し、そして何うして格子先、お顔を見もせ見せまして、勤の憂さを忘れ草、ちよつと吸付けたまさかに、化けあがつて居続に、昼も屏風の木下闇
『廓の習と夜を昼に、かはる瀬川のつま思ひ、身のうしみつを指折れば、四つ九つや八つ目の、簾子の格子押のけて、まだ文も見ぬ家根づたひ、天の橋立つま立てゝ、見越の松にうち掛くる、つたのをがせの夫ならで、しごきを力にやう/\と、下にうち伏し犬の声
『お菊はそれと走り出で、窺ひよつて
『と言ふ間遅しと打連ぬ
『逢ひたかつたと抱きつき、互に引締め抱きつめ、更に言葉は泣くばかり、お菊も貰ひ泣きくずをれ、斯ては果じと気を励し
『此の上どんな浅ましい、辛い苦界に沈むとも、宝の硯詮義して、目出度う本地へ御帰参の、元のお姿見る迄は、どうせ夜の目は淡路島、幾夜寐覚も帯と解て、心は須磨の裏千鳥、泣き明石潟袖しぼる
『さんげ/\六根大しやう、おしめとおはつと根よく端うたに浮し立てられ、有頂転倒大日如来
『仮宅遊びが大すきめう神、其処で家には飯綱の権現、かしまに勘当うけずの明神、今日も流して泊り鴉のかア/\加賀には白山権現、借金駿河の冨士ほどあつても、びくとも浅間大菩薩、哀愍納受のいちじゆ礼拝敬つて申す
『それその様に平生から、一図にものを思ひつめ、果は病に
『情ない、やつれさんしたお姿に
『今宵初めて逢ふたとき、抱きつかうにも痛はしい、何故患ふて下さんした、ついした事と聞た故
『お前のお身を御帰参の
『為に成田の開帳へ、代参たてゝお抽籤を、とれば此の身の吉ならず、長い別と判断を、聞て身も世もあらばこそ、所詮叶はぬことならば、一所に殺して下さんせと、すがり身悶え泣沈む
『折から路地口騒がしく、禿波江を若い者、襟上とつて引立てる、遣手のつめもつかうどごへ
『しごうの死苦と此の世の地獄、別れ/\て走り行く

分類番号

00-1331211-y1b3t3b1-0001
データ入力日:2016/05/17

清元 藪椿誰転寝 歌詞