題名

虚無僧(こむそう)

詞章

声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第2編 長唄集(明治42年)

『月は昔の友ならば/\、よの外いづくならまじ
『是は諸国一見の僧に候、我未だ駿河の国富士浅間へ参らず候程に、此度思ひ立ち富士の御山へ参ばやと思ひ候
『風に靡く不二の煙の空に消えて、行衛も知ぬ我が思かな、のう/\それなる御僧、今の歌をぼ何と思寄りて口ずさみ候ぞ、申是申御僧さんへ、はつち/\そうあいたはんのしよもうせうし
『正月しまから何ぞいの、椀久ではあるまいし、ほんに時知ぬ虚無僧は、いつも天蓋かぶるぢやのふ、何時しらぬ虚無僧とや、オゝ時しらぬ山は富士の根いつとて鹿の子斑に雪の降らん、山は白妙海は緑の三保の松風、さらり/\さら/\さつと姿の花の名に寄する、大磯の里につきにけり
『夫れは昔の西行の江口の君と戯れを此処にうつして浪花なる、伊勢の浜荻こき交ぜて女の撚れる黒髪に、大象も繋がるゝ人は見目よりたゞ心里の色師の恋話
『されば浪花に名も高き恋の訳しり、花ならば桜と人に宵の口詞に色を花曇文と異名を雁金の、並びに青柳嘘ぢやごんせぬ紋所、通ふちたねを結ぶしこなし、申ふみさんいつぞは私がこなさんに言はう/\と思ふて居たが、今は返らぬことながら彼方では喧嘩がある此処では抜いた斬つたはと、相手替れど主さんは変らぬ浪の雁金の文さまなりと聞くに付け夜の目さめも阿波座の烏、鳴いて明さぬ夜半とてもなし、其の辛さより此の辛さ乾く間もなき袖の露
『雁と燕の中よいは、行くも帰へるも別れては、花の盛を待ちかねて、月に指折る深い仲、恋のいろはも文とかく、しよんがへ、ほんに/\嬉しい/\浮名たつな恋衣
『翼なけれど塗下駄の、あたる尺八あたるが最後、恋慕虚空のあしらひに、君が清掻三味線の、きよれいふれいもよし悪も、鶴の巣籠立引に、あき田清掻いやとは言さぬ獅子の曲迄吹きおさめ、弱いものをばよけたがよい強いやつをば投たがよい、わしやさう思ふてゐるわいな、さうだんべ/\、菜種に蝶のしこなしを、頼みやんすで小桜の、深い浅いも末かけて、名に呼れたる男一流、みめよき心も花に鶯、通う神風葺矢町、人の市村男達よき春の賑ひ

分類番号

00-2310000-k5m3s5a3-0001
データ入力日:2016/05/16

長唄 虚無僧 歌詞