#author("2016-10-21T11:30:34+09:00","default:Tomoyuki Arase","Tomoyuki Arase")
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*題名 [#c2fb916c]
*題名 [#E5B1010301]
山姥(やまんば)
*本名題 [#mb2f8e45]
*本名題 [#E5B1010309]
月花茲友鳥(つきとはなここにともどり)
*詞章 [#w3851225]
**声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年) [#n81de482]
*詞章 [#E5B1010303]
**声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年) [#E5B1010304]
(資料の題名『月花茲友鳥』)

(紫雲庵述)

『懸河渺々として巌峨々たり、山又山の大名題、薪に花の山賊は
『曲げたる肱の高枕、煙草の煙婉々と、雲を吹くなる中空に
『アヽラ不思議や、今思はずもまどろむ中空に、あり/\赤色の雲の有様、目前不思議は此の山中に、人こそかくれ住むといふ知らせなるか、何にもせよ奇代なことを見る物ぢやなア、夫れはさうと頼光公の仰あつたは、此の山蔭の嬶衆と小僧め、どれおつづれて見べいか
『立寄る軒の柴の戸に
『蔦の錦を織姫の、五百機ならぬ糸車、めぐる浮世を捨し身は、櫛せぬ髪の〔合〕自ら〔合〕鬼とや人の見るやらん
『おふくろ此の頃は逢ひませぬノ
『オヽ誰かと思へばよき蔵殿
『ときに小僧はどうしました
『さつきにまでいたづらして居ましたが、大方また猪猿を相手に相撲がな取つて居ませうわいの
『そりやまアあぶない、跡先見ずの頑是なし、呼つしやい/\
『ほんに怪我でもせねばよいが
『徒な子には目のなき親心、木の間がくれにちら/\と、赤いはそれか白膠木の紅葉〔合〕エヽそでもない、若しや谷間へ〔合〕石鮒取か、いらぬものぢやに辷らばなんと
『しやうどない子と言ふ内に、夫れと見つけて母は立寄り、快童丸ヤアイ/\、手を打叩き招くにぞ
『神楽月とて片山里も、笛や太鼓で面白や〔合〕足のつめたに草履買ふてたもれ、子をとろ子とろどの子が目づき跡の子が目づき〔合〕かごめ/\籠の中の鳥は、いつ/\出やる夜明の晩に、つる/\/\つゝぱいつた、木の間笹原くゞり/\、くゞつてひよいと来た幼児
『コレ母さん、おりやこんな花を折て来たよ
『花うちせうと振立てゝ、わやく盛りぞ愛らしき
『どれマア一ぷくやらすべいか
『母さん何ぞ下され
『オヽ遣りませう/\、と言ひさま傍の風車、見せれば快童手に取て
『こんなよい物誰にやろかにやろ、いつちいとしい奔走子に
『鈴やつぼ/\でん/\太鼓〔合〕廻れや廻れ風車、くるりくる/\くるくると、世をうつ蝉のから衣〔合〕千せい万声の砧に合せ〔合〕鼓の拍子しで打や
『コレ/\小僧、その鉞を馬にして
『オヽコリヤよからう、サア/\快童丸お馬がまいる
『ハイ/\/\
『月毛にあらぬ斧の駒、とるや手綱もりゝしげに
『先のけ/\先のけろ
『お月様いくつ
『十三七つ
『御供はいくつ
『八十八つ
『ほんにそりや若いな
『山家踊は何とゆた
〔二上り〕『おんらが在所はナア、奥山の爺打のでんぐり/\栗の木の〔合〕木の根を枕にこざれ抱いて転び寝、こな小女郎が恋する山家のしなもので、帯解いてござれ抱いて転び寝
『母さま乳飲まう
『またかいのう、夫れよりは山めぐりして、遊ばす程に機嫌直して
『そんならおふくろ、山めぐりの話を此処で聞くべいか
『よし足曳の山廻り、四季の眺も面白や、梅が笑へば柳がまねく、風のまに/\早蕨の、手を引添ふて弥生山、つくらふ花の仇桜〔合〕
『桃は気儘に山吹も、見はてぬ内に〔合〕春過ぎて、早卯の花と花がつみ
『そして〔合〕あやめ菖蒲や杜若、ほつそりと時鳥、アレ夕立に濡れ忍、涼風がへ〔合〕
『雁が届けし玉章は〔合〕小萩の袂刈萱に、返事紫苑も朝顔の
『遅れ咲なる恨み侘び、露にも濡れてしつぽりと、伏猪の床の菊襲〔合〕よい/\よい/\よいやさ
『よいや冴え行く初時雨、松も杖つく老の坂
〔二上り〕『あらも嫁入てナア〔合〕来た時やほんにサア〔合〕爺様上下わしや丸綿で、顔に茜も恥かしかつた盃、今は朝茶に念仏拝んで、御ありがた衣角かくし〔合〕女夫と参るお朝路や、我は小故に室咲の、花を尋ねて山めぐり
『如何さま親といふもの有難いものだ、しかし女の身にて此の山中に引こもり仔細ぞあらん、我こそは源家の長臣三田の仕といふ者、願によつて力となつて得させん様子は何と
『そんならあなたが三田の仕様とや、此の上は何をか隠し申さん、我々こそは坂田の蔵人時行が妻子の者でござります
『扨こそなア
『願は夫時行殿、すぎ去る折から胎内に宿せし一子、武士に育て一天下に名を上させよとの遺言、此の足柄の山神に祈誓をかけ、はや七年の歳月をおくる或る夜のうち、神の御告に成長なした此の快童
『ホヽウ驚き入つたる物語、母が丹精山神の加護、勇力嘸かし思はるゝ、快童此の場で某と、コリヤ力を試して見るか
『コレ/\快童負けまいぞ
『サア来い快童
『合点だ
『神変不思議の快童丸〔合〕こなたはあしらふ勇力士〔合〕快童いらつてかたへなる、松を根こぎに引抜いて、ふんぢかつたる有様は、人も恐るゝ許りなり
『其の松の根こぎ面白い、サア打て来い
『合点だ
『勝負/\と打かくるを、すかさぬ強気の力瘤〔合〕幹より腕の節くれて、しつかと握めばめり/\/\
『ゑいや/\と捻じ切て〔合〕左右へ別れて立つたりしは、目覚しかりける次第なり
『オヽ力の程は試し見た、今より頼光公の家臣となさん
『何がさて母が悦び此の上なし
『然らば今より父が其の名を坂田の公時と名乗らせん
『そんならおれは侍になるのか
『オヽ嬉しかろ/\去ながら、今別るれば母に逢ふことはならぬぞや、快童こゝへおじや
『夫の形見と見るにつけ、そなたの大事さ大切さ、今日別るれば、今宵より、母一人寐の閨の内〔合〕さぞ面影の懐かしからう〔合〕頼光公へ御奉公、勤める隙の旦暮に
『武術を励み奉公せよ、必ず/\人様に
『山姥が子と笑はれな
『今別るゝとも此の母が
『そなたの影身に附添て、猶行末を守るべし〔合〕とは言ふものゝこれがまあ、名残惜しやいとをしやと〔合〕抱き上げ抱き付きわつと一声は、梢に響きて哀れなり
『折から向ふに聞ゆる陣鉦、親王の下知を受け、猪の熊入道馳せ来り、快童やらぬと詰かくれば
『箆棒坊主奴、快童丸は此の仕が、頼光公の御家来にして了つたは
『討手はきよろり口あんごり、快童捕へて猪の熊が、首筋つかんでエイエイヤツト引廻せば、忽ち体は粉微塵強勇力士かくならん
『オヽ出来た/\今の働き見ると言ひ、望たりぬる上からは、輪廻を離れん快童丸、名残は尽きじ早さらば
『いとま申して帰る山の
『峰の梢も白妙や〔合〕源氏の武名尽せなき、実さへ花さへ立花の、賑ふ櫓ぞ久しけれ、栄ふる櫓ぞ目出度けれ
**国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」 [#u51403eb]
**国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」 [#E5B1010305]
(目次・本文の題名『月花茲友鳥(山姥)』)

(作者 紫雲庵)

「懸河渺々として巌峨々たり山又山の大名だい前に花の山賎は
〔團十出〕「曲げたる肱の高枕たばこの煙ゑんゑんと雲を吹くなる中空に
「アヽラ不思議や今思はずもまどろむ中空にあり/\赤色の雲の有様目前ふしぎは此山中に人こそかくれ住といふ知らせなるか何にもせよ稀代な事を見る物じたなアぞれはそふと頼光公の仰あつたは此山かげのかゝ衆と子僧めどれおとづれて見べいか
「立寄る軒の柴の戸に
「蔦の錦を織姫の五百機ならぬ糸車めぐる浮世をすてし身は櫛せぬ髪のおのづから〔合〕鬼とや人の見るならん
〔團〕「おふくろ此頃は逢ひませぬ
〔三津五郎〕「ヲヽだれかと思へばよき蔵殿
〔團〕「ときに小僧はどふしました
〔三津〕「さつきにまでいたづらして居ましたが大方また猪猿を相手に相撲がなとつて居ませふはいの
〔團〕「そりヤマアあぶない跡先見ずの頑是なし呼ばつしやい/\
〔三津〕「ほんに我俄でもせねばよいが
「いたづらな子には目のなき親心木の間がくれにちら/\と赤いはそれかぬるでのもみぢ〔合〕ヱヽ〔合〕そでもない若しや谷問へ石鮒とりかいらぬ物じやにすべらばなんと
「しやうどない子といふ内にそれと見付けて母は立寄り怪童丸ヤアイ/\手を打たゝき招くにぞ
「神楽月とて〔合〕片山里もふゑや太鼓でおもしろや〔合〕あしのつめたい草履買ふてたもれ〔合〕子をとろ子とろどの子が目づき〔合〕跡の子がめづき〔合〕かごめ/\かごの中の鳥はいつ/\出やる夜明のばんにつる/\/\つつぱいつた木の間笹原ぐゞり/\くゞつてひよいと来たみどり子
〔半四郎〕「コレかゝさんおりやこんな花を折て来たよ
「花うちせうとふり立てわやくざかりぞ愛らしき
〔團〕「どれマア一服やらかすべいか
〔半〕「かゝさん何んぞ下され
〔三津〕「ヲヽやりませう/\といひさまそばの風車見せれば怪童手に取て
「こんなよい物たれにやろかにやろいつちいとしいほんそ子に〔合〕
「すゞやつぼつぼでん/\太鼓廻れや廻れ風車くるりくる/\と世をうつ蝉のから衣〔合〕千せい萬歳の砧に合せつゞみの拍子でうつや
〔團〕「コレ/\小僧此まさかりを馬にして
〔三津〕「ヲヽこりやよからうサア/\怪童御馬がまいる
〔ハイ/\/\
「月毛にあらぬ斧の駒とるや手綱もりゝんしげに
「先のけ/\先のけろ
「お月様はいくつ
「十三七つ
「お供はいくつ
「八十八つ
「ほんにそりや若いな
「山家おどりは何とゆた
〔二上り〕「おんらが在所はナア奥山の爺打の〔合〕でんぐり/\栗の木の木の根を枕にござれだいてころび寝こな小女郎が恋する山家出しなもので帯といてござれ抱いてころび寝
〔半〕「かゝさま乳のまふ
「又かいのふそれよりは山めぐりして遊ばす程に機嫌直して
〔團〕「そんならお袋山廻りの咄しをこゝで聞べいか
「よし足引の山めぐり四季のながめもおもしろや〔合〕梅が笑へば柳がまねく風のまに/\さはらびの手を引添へて弥生山つくらふ花の仇ざくら〔合〕
「桃は気侭に山吹も見はてぬ内に春過ぎてはや卯の花とはながつみ
「そしてあさめ菖蒲や杜若ほつそつとほとゝぎすアレ夕立にぬれしのぶすゞ風がへ〔合〕
「雁がとゞけし玉づさは〔合〕小萩のたもと〔合〕かるかやに返事紫苑も朝顔の
「おくれ咲なるうらみわび露にもぬれてしつぽりと伏猪の床の菊がさね〔合〕ヨイ/\/\/\ヨイヤサ
「よいやさへゆく初時雨松も杖つく老の坂
〔二上り〕「おらも嫁入つてナア〔合〕来た時やほんにサア〔合〕ぢさま裃*1わしや丸綿で顔にあかねもはづかしかつたさかづき今は朝茶に念仏をがんで〔合〕御ありがた衣角かくし〔合〕めうとで参るお朝路や我は子故に室咲の花をたづねて山めぐり
〔團〕「いかさま親といふものは有難いものだしかし女の身にて此山中に引こもり仔細ぞあらん我こそは源家の長臣三田の仕といふ者願によつて力となつて得させん様子はなんと
〔三津〕「ぞんならあなたが三田の仕様とや此上は何をかくし申やん我々こそは坂田の蔵人時行が妻子の者でござります
〔團〕「扨こそナア
〔三津〕「願ひは夫時行殿すぎ去る折から胎内にやどせし一子武士に育て一天下に名を揚げさせよとの遺言此足柄の山神に所誓をかけはや七午の年月を送る或夜の夢のうち神の御告に成長なした此怪童
〔團〕「ホヽヲ驚入つたる物語母が丹精山神の加護勇力さぞかし思はるゝ怪童此場で某とコリヤカをためして見るか
〔三津〕「コレ/\怪童負けまいぞ
〔團〕サアこい怪童
〔半〕「〔合〕点だ
「神変不思議の怪童丸〔合〕こなたはあしらふ勇力士〔合〕怪童いらつてかたへなる〔合〕松を根こぎに引抜いてふんぢがつたる有様は人も恐るゝ計なり
〔團〕「其松の根こぎ面白いサア打てこい
〔半〕「がつてんだ
「勝負勝負と打かくるをすかさぬ強気の力瘤〔合〕幹より腕のふしKuれてしつかとつかめばめり/\/\
「えいやえいやとねぢ切て左右へ別れて立つたりしは目ざましかりける次第なり
〔團〕「ヲヽ力の程はためし見た〔合〕より頼光公の家臣となさん
〔三津〕「何がさて母が悦び此上なし
〔團〕「然らば今より父が其名を坂田の公時と名乗らせん
〔牛〕「それならおれは侍になるのか
〔三津〕「ヲヽ嬉しかろ/\去りながら今別るれば母にあふ事はならぬぞや怪童こゝへおじや
「夫のかたみと見るにつけそなたの大事さ大切さ今日別るれば今宵より母一人寝の閨の内さぞ面影のなつかしからふ〔合〕頼光公へ御奉公つとめる隙のあけくれに
〔三津〕「武術を励み奉公せよ必ず/\人様に
「山姥が子と笑はれな
〔三津〕「今別るるとも此母が
「そなたのかげ身に付添ふて猶行末を守るべし〔合〕とは言ふ物のこれがマア名残惜しやいとをしやと抱きあげいだき付き思はずわつと一声は梢にひゞき哀れなり
「折柄向ふに聞ゆる陣鐘親王の下知をうけ猪の熊入道はせ来り怪童やらぬとつめかくれば
〔團〕「べらぼう坊主め怪童丸は此仕が頼光公の御家来にしてしまつたは
「討手はきよろり口あんご怪童とらへて猪の熊が首筋つかんでエイ/\ヤツト引廻せば忽ちからだは粉微塵強勇力士かくならん
〔三津〕「ヲヽ出来た/\今のはたらき見るといひのぞみ足りぬる上からは輪廻をはなれん怪童丸名残はつきじ早さらば
〔ウタヒ〕いとま申して帰る山の
「峯の梢も白妙や〔合〕源氏の武名つきせなき実さへ花さへ橘のにぎはふ櫓ぞ久しけれ栄ふる櫓ぞめでたけれ。

*1 「裃」は「衣へん+上」「衣へん+下」の二文字だが、「裃」の一字で代用した。 [#s351a5fb]
*その他の情報 [#j9f72477]
文政6年(1823)11月初演 紫雲庵作詞 清元斎兵衛作曲
『大和大和花山樵』(やままたやまはなのやまがつ)大切
*関連項目 [#r70fbf3a]
[[山姥(常磐津)]]
*タグ [#c946ba02]
国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」
*タグ [#E5B1010313]
#山姥物
*分類番号 [#l69396d8]
*分類番号 [#E5B1010314]
00-1331211-y1m1n0b1-0001
データ入力日:2016/05/17
RIGHT:清元 山姥 歌詞