#author("2016-10-21T11:03:35+09:00","default:Tomoyuki Arase","Tomoyuki Arase")
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*題名 [#wa22b9ef]
十六夜(いざよい)
*本名題 [#f5575202]
梅柳中宵月(うめやなぎなかもよいづき)
*別題 [#n8140383]
十六夜清心(いざよいせいしん)
*詞章 [#qbf30bc5]
**声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年) [#t6ed891e]
(資料の題名『梅柳中宵月』)

(河竹新七述)

『朧夜に星の影さへ二つ三つ、四つか〔合〕五つか鐘の音も〔合〕もしや我身の追手かと、胸に時うつ思ひにて、廓を抜し十六夜が
『落て行衛も白魚の、船の篝に網よりも、人目厭ふてあと先に、心置く霜川端を、風に追れて来りける
『嬉や今の人声は、追手ではなかつたさうな、廓を抜てやう/\と、爰まで来たことは来たれども、行先知ぬ夜の道、何処をあてどに行うぞいの
『暫し佇む上手より〔合〕梅見帰りの船の唄〔合〕
『忍ぶなら/\〔合〕闇の夜は置しやんせ〔合〕月の雲に障りなく〔合〕辛気待宵十六夜の〔合〕うちの首尾はエヽよいとの/\〔合〕
『聞く辻占にいそ/\と、雲脚早き雨空も、思ひがけなく吹晴て、見かはす月の顔と顔
『ヤ十六夜ではないか
『清心様か、逢ひたかつたわいなア
『すがる袂も綻びて、色香こぼるゝ梅の花、流石此方で憎からで
『見ればそなたは只一人、廓を抜て何処へ行のぢや、何処へ行くとは胴欲な、今日御追放と聞た故、ひよつと是限逢れまいかと、思へば人の言事も心にかゝる辻占に、人目を忍んで来た私、何れなりと倶々に、連てのいて下さんせ
『その厚志は忝謝ないが、不図した心の迷いひより、御恩を受し師の坊、お名を汚せし勿体なさ
『たゞ何事もこれ迄は夢と思ひて清心は、今本心にたちかへり
『京へ登つて修行なし、出家得脱する心、そなたは廓へ立帰り、よい客あらば身をまかせ、親へ孝行尽しやいのう
『そりや情ない清心様
『今更言も愚痴ながら、悟る御身に迷ひしは〔合〕蓮の浮気や一寸惚れ〔合〕浮た心ぢやござんせぬ
『弥陀を誓ひに冥府まで、かけて嬉しき袈裟衣〔合〕結びし縁の珠数の緒を〔合〕
『たま/\逢ふに切よとは、仏姿にありながら
『お前は鬼か清心様、聞へぬわいのと取縋り、恨みなげくぞ誠なる
『さういやるは嬉しいが、見る影もない所化あがり、わしに心中立ずとも、思ひ切るのがそなたの為
『そんならどうでも私をば、連てのいては下さんせぬか
『サア悪い事は言ぬ程に、早く廓へ帰りやいの
『そのお言葉が冥土の土産
『岸より覗く青柳の、枝も枝垂て川の面、水に入りなん風情なり
『南無阿弥陀仏
『既に斯よと見えければ、清心慌て抱きとめ
『アヽこれ待つた、早まるな
『イヱ/\放して殺して下さんせ、所詮長らへ居られぬ訳故
『ナニ長らへて居られぬとは
『勤めする身に恥かしい、私やお前の
『ヱヽそんならもしや愚僧が胤を
『アイなア
『ムウアヽ此儘別れて行時は、腹の子迄も闇から闇と、なつて一所に伴はゞ
『廓を抜しそなた故、捕へられなば誘拐
『再び縄目に逢んより、いつそ此場で倶々に
『そんなら死んで下さんすか
『外に思案はないわいの
『ほんに思へば十六夜は〔合〕名よりも年は三つまして、丁度十九の厄年に、我が身も同じ廿五の、此暁曙が別れとは、花を見捨て帰る雁、それは常闇の北の国、これは浄土の西の国、頼むは弥陀の御誓ひ
『南まいだ/\南無阿弥陀
『これが此世の別れかと、互に抱き月影も、またもや曇る雨催ひ
『此世で添れぬ二人が悪縁、死うと覚悟極めし上は
『少しも早う
『南無阿弥陀仏
『西へ向ひて合す手も〔合〕凍る寒さの川淀へ、ざんぶと入るや水鳥の、浮名をあとに残しける
**国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」 [#a23428b6]
(目次の題名『梅柳中宵月(清心)』本文の題名『〔朧夜に憎きものは男女の影法師〕梅柳中宵月(清心)』)

(作者 河竹新七)

「おぼろ夜に星のかげさへ二つ三つ四つか〔合〕五つか鐘の音も〔合〕もしやわが身の追手かと胸にときうつ思ひにて廓を抜けし十六夜が
「落て行衛も白魚のふねのかゞりに網よりも人目いとふてあとさきに心おく霜川ばたを風に追はれて来りける
〔粂三郎〕「うれしや今の人声は追手ではなかつたそうな。廓をぬけてやうやうと此処まで来た事は来れども行先知れぬ夜の道。どこをあてどに。ゆかうぞいの
「しばしたゝずむ上手より〔合〕梅見がへりのふねの唄〔合〕
〔ハウタ〕「忍ぶなら忍ぶなら闇の夜はおかしやんせ〔合〕月に雲のさはりなく〔合〕しんき待宵十六夜の〔合〕うちの首尾はエヽよいとのよいとの〔合〕
「聞く辻占にいそ/\と雲足早き雨空も思ひがけなく吹はれて見かはす月の顔とかは
〔小團次〕「ヤ十六夜ではないか
〔粂〕「清心さんかあいたかつたわいなア
「すがる袂もほころびていろ香こぼるゝ梅の花さすがこなたも憎くからで
〔小團〕「見ればそなたは只一人。くるわをぬけてどこへ行くのじや
〔粂〕「どこへ行くとはどうよくな。けふ御追放と問たゆゑひよつとこれぎりあはれまいかと。思へば人の言ふ事も。心にかゝる辻占に人目を忍んで来たわたし。いづれへなりと共々に連れてのいて下さんせ
〔小〕「其こゝろざしは忝けないが。ふとした心のまよひより。御恩を受けし師の坊の。お名をけがせし勿体なさ只何事もこれ迄は夢と思ひて清心は今本心に立帰り
〔小〕「京へ登つて修行なし。出家得脱する心。そなたはくるわへ立帰り。よい客あらば身を任せ。親へ孝行つくしやいのふ
〔粂〕「そりやなさけない清心さま
〔クドキ〕「今更いふもぐちながら悟る御身にまよひしは〔合〕蓮の浮気や一寸ぼれ。ういた心じやござんせぬ
〔▲〕弥陀をちかひにあの世までかけてうれしき袈裟衣〔合〕結びし縁の珠数の緒を。
〔■〕〔カン〕「たま/\あふに切れよとは仏すがたになりながら
〔▼▲〕「おまへは鬼か清心さまきこへぬはいのととりすがり恨みなげくぞ誠なる
〔小〕「そういやるにうれしいが。見るかげもない所化あがり。わしに心中立ですとも思ひ切るのがそなたのため
〔粂〕「そんならどうでもわたしをば。つれてのいて下さんせぬか
〔小〕「サアわるい事はいはぬほどに。はやうくるわへ帰りやいの
〔粂〕「そのお詞が冥土の土産
「岸よりのぞく青柳の枝もしだれて川の面水に入りなんふぜいなり
〔粂〕「南無阿弥陀仏
「すでにかうよと見えければ清心あはていだきとめ
〔小〕「アヽこれまつた。はやまるな
〔粂〕「イエ/\はなして。ころして下さんせ。所詮ながらへ居られぬわけゆへ
〔小〕「ナニながらへてゐられぬとは
〔粂〕「つとめする身にはづかしい。わたしやおまへの
〔小〕「エヽそんなら。もしや愚僧がたねを
〔粂〕「アイなア
〔小〕「ムヽアヽこのまゝわかれてゆくときは腹の子迄闇からやみと。なつて。緒に伴はゞ
〔小〕「くるわを抜しそなたゆゑとらへられなばかどわかし
〔小〕「ふたたび縄目にあはんより。いつそ此場で共々に
〔粂〕「そんなら死んで下さんすか
〔小〕「外に思案は無いわいの
「ほんに思へば十六夜は〔合〕名よりも年は三つまして丁度十九の厄年に〔中カン〕わが身も同じ廿五の此あかつきがわかれとは花を見捨てゝ帰る雁それはと二世の北の国これは浄土の西の国頼はみだの御誓
〔●〕「なまいだ/\なむあみだ
〔▲〕「これが此世の別れかと〔▼▲〕「互にいだき月影もまたもやくもる雨催ひ
〔小〕「此世でそはれぬ二人が悪縁
〔粂〕「死のうと覚悟きはめし上は
〔小〕「すこしもはやう
〔両人〕「南無阿弥陀仏
〔▼▲〕「西へ向ひて合す手も〔合〕こほるよさむの川淀へざんぶといるや水鳥のうき名をあとにのこしけり。
*その他の情報 [#n0cbbb6a]
安政6年(1859)2月 河竹黙阿弥作詞 清元お葉作曲
『小袖曽我薊色縫』(こそでそがあざみのいろぬい)の浄瑠璃所作事
*関連項目 [#s60618ff]
*タグ [#m0e20bc7]
*分類番号 [#md4558d2]
00-1331211-a2z1y5a2-0001
RIGHT:清元 十六夜 歌詞