#author("2016-10-21T11:25:20+09:00","default:Tomoyuki Arase","Tomoyuki Arase")
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*題名 [#z037c8e6]
土佐絵(とさえ)
*本名題 [#oe4bbb3d]
江戸桜衆袖土産(えどざくらてごとのいえづと)
*別題 [#s2c52778]
いにしえ,鞘当(いにしえ,さやあて)
*詞章 [#nc9f506c]
**声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年) [#j736f6db]
(資料の題名『江戸桜衆袖土産』)

(松井幸三述)

『往古の〔合〕ちぬと佐々田の男子どち、相競ひてぞ妻とひし、うなび乙女の故事を、拙き筆に写絵や
『同じ江に住めば嬉き契なり、夫は津の国生田川、これは東都の隅田川、思ひ競べん恋の山、富士と筑波の中々に〔合〕よう似た心も姿も、勝り劣らぬ桃桜、中に柳の何方へ靡く、風次第とは浮気らし、とうから色目に三ツ扇
『三笠の松に三ツ大は、模様も同じ壮夫の、恋争ぞ優しけれ
『大和物語に水鳥を射し恋争
『思は同じ我々も
『その大和なる猿沢の、跡を写して鏡が池
『廓に名高き采女太夫
『これも東の寛濶に
『出たつ姿の風俗は
『名に立髪の
『寛濶扮装、大小さすが白繻子の腰巻羽織伊達衣装〔合〕姿もぐわちか粹なとの〔合〕ふりみふらずみ潦水、濡にぞ濡し花の雨、どつとぞめいてとうした〔合〕
『出立/\その風俗も、それさ/\〔合〕そんじよそれさまに見しよづもの、さんやれ/\さまが六方振なら姿なら
『やつちやしてこい〔合〕鞘咎め花に厳し銀鐺
『二木の花の中に立つ、江戸紫の杜若〔合〕ゆかりの色の廓乙鳥〔合〕軒をくゞりて行通ふ、何方へかうと物言はぬ、花の嫌な風吹けば
『月の厭がる雲添て、二人はやらじと引留るを、何と言れう胸の闇〔合〕
『吉原ばかり月の夜に、桜に酒の酔心、見返り柳相の手に
『梅の浪花に桜の都、月の武蔵野に信濃の雪も、たまに見る故月雪花よ〔合〕
『恋の要は逢ふ夜の首尾よ、そつと二階の九ツ階子
『吸殻の火で顔を見る
『儚いが恋〔合〕さうぢやいな
『さんさ時雨か茅屋の雨かイヤ
『トウ来ましてどん、音もせで来てぬれかゝるしよんがへイヤ
『トウ来ましてどん
『せで来てなせで来てさまよ
『エヽ/\/\せで来て濡るゝかしよんがいな、しどもなや
『若い内こそ色も香も
『彼方へひけば
『此方へも
『引に引れぬ振の袖、柳にかけて影かくす采女が跡を慕ひ行く
『みきと聞/\名も面白や白雪の空にしられぬ散る桜〔合〕散れども降れども更に身には寒からず〔合〕江戸の鑑の花に樽、底抜上戸の〔合〕癖として、訳も永の日〔合〕ぶら/\と〔合〕我が影の〔合〕うつるを目当に反打かけ
『ナヽ何だ歩けば歩く留れば留る、己が真似をばしやアがる、向は慥〔合〕左利き歩けば歩く留れば留るコリヤどうぢや
『ハヽ解つた
『か〔合〕げ〔合〕法師〔合〕
『花を三囲ちらちらと〔合〕八重か一重か目が据り〔合〕足は据らぬ〔合〕土手伝ひ〔合〕お供にはぐれた酒機嫌〔合〕
『吉田通れば二階から、しかも鹿の子の振袖で〔合〕
『閨のお伽は搗たて牡丹餅柔で、いつと龍磐魚の黒焼を薬なんぞに身を任せ
『奇妙/\さつても奇妙長命寺連を招いて黄粉餅、甘口らしいぢやあるまいか
『芸者姿の仇なりと〔合〕名にこそ立れ桜色、ねぢつけられた返報に、何処の彼処の嫌なく、ほつき歩きの駒下駄が〔合〕勇めば花が散るであろ〔合〕いろにそやされ箱持と、稲野屋もどきの述懐はいけもせぬ〔合〕役者物真似流行唄〔合〕思ひつかせて引気にも、少し早いが〔合〕杜若
『イヨ山々有難い、アレ悪口をと突放し
『どつこい
『危い爪付く石も縁の端〔合〕笑ひ合ふてぞ来りける
『モシ/\お前は旦那を船からあげて何をして居なさつた
『イエ私よりお前が旦那を
『サア私は此の花を見て、其の上お前の顔が花だ/\
『成程お屋敷さんは女にかけては
『イヤ是から己が旦那になつて、コレお主に言ふなら
『あだおいそれの浮気者、土地柄だけに小勇の〔合〕
『男に味な目遣はなんぼ〔合〕ぶんぬき奴でも、また折々は長屋でも
『しこなされたる此の粹様の、鼻毛よりとはお忝け
『そつくり置てくん内縞、似合ぬ縁ならしよことがねへ、実にしよことが〔合〕ないわいな
『久しいものぢやこれ申し、客あしらひも表むき
『芸者商売始から、得心づくで斯うなつて、心は真味な女房気も〔合〕浮気な酒に紛らして〔合〕座敷勤めて客さんの〔合〕機嫌をとるが珍らしいか、三味線弾のが不思議なか〔合〕これ〔合〕甚介も休み/\言んしたがよいわいな
『酒に浮るゝおどけ節
『親父四角で息子が丸い、銀の/\煙管でよく通るサマヨトコセ
『おらが婆様は念仏は言いで、兎角浮世は茶で世を渡るサマヨトコセベカチヤ
『さればよ厭なお客の癖として、受りや受る程真受に受て、強てひぞるが受にくいサツサ
『どうでも
『こうでも
『何でも彼でも影で謗るを、お前は知ぬが仏で
『居やしやんしよんがいな、やろが信濃の雪国へ
『さまは小溝の鰌や鯰へ、ぬらりくらりで気が知ぬ
『ちよいと其処等で若いは二度ない、色と蕎麦切は延びてはいかねへ
『今宵逢をとの約束しめてへ、背戸の桃の木立明す
『そりや来た/\嫁御の御入は鋲打乗物、お傍のつき/゛\かつぎは沢山
『向ふの玄関出向ふ人数がお手を取り/゛\、ずつと通り行ば座敷は島台〔合〕
『聟さん上下〔合〕
『嫁御は振袖〔合〕
『ちよつぴり頭にぼうしを冠つてさん/\盃
『謡でひつとり万歳万歳万々歳〔合〕
『その跡はしらねへさつさとやらかせ〔合〕エヨイやらしやんせ
『こちも寝よやれ辻が花
『佐渡とイヨコノ越後は佐渡と越後は筋向ひ、橋をイヨコノ架きよヤレ橋を架きよヤレ船橋を、橋のイヤコノ下なる橋の下なる鵜の鳥が
『小鮒くはへてぶりしやりと面白や
『浮立つ雲も入相に、花から花へ渡し場へ、ぞめきたちてぞ急ぎ行く
**国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」 [#sd14e072]
(資料の題名『江戸桜衆袖土産(土佐絵)』本文の題名『江戸桜衆袖土産(土佐絵又はいにしへ)』)

(作者 松井幸三)

上の巻

「いにしへのちぬとさゝだのおのこどち相競ひてぞつまどひしうなびおとめの故事を拙き筆にうつしゑや
〔三十郎蓑介/粂三郎出〕「同じゑに住ばうれしきちぎりなりそれは津の国生田川これはあづまの隅田川おもひくらべん恋の山富士と筑波の中々に〔合〕よふ似た/\心もなりも勝り劣らぬ桃桜中に柳のどちらへなびく風次第とは浮気らし〔合〕とふからいろめに三つあふぎ
「三かさの松に三つ大は模様も同じますらをの恋あらそひぞやさしけれ
〔三十〕「大和物語に水鳥を射し恋あらそひ
〔みの〕「思ひは同じ吾々も
〔粂〕「その大和なる猿沢のあとをうつして鏡が池
〔三十〕「くるわに名高きうねめ太夫
〔みの〕「これもあづまのくわんくわつに
〔粂〕「出立姿の
〔三十〕「風俗は〔合〕
「名に立がみの
「寛濶出立〔合〕大小さすがしろじゆすの〔合〕こしまき羽織〔合〕伊達衣裳〔合〕すがたもぐわちか粋なとの〔合〕ふりみふらずみいわたずみぬれにぞぬれし花の雨どつとぞめいて〔合〕とうした〔合〕
「出立々々そのふうぞくもそれさ/\そんじよそれ様に〔合〕見しよづものさんやれ/\〔合〕さまが六ぽう〔合〕ふりなら〔合〕なりなら〔合〕
「やつちやしてこい〔合〕さやとがめ〔合〕花にいかめしぎんこぢり
「二木の花の中に立つ江戸紫のかきつばたゆかりの色のさとつばめ〔合〕のきをくゞりて行通ふどちらへこふとものいはぬ花のきらいな風ふけば〔合〕
〔カン〕「月のいやがる雲そへてふたりはやらじと〔合〕引とむるをなんといはれう胸のやみ
「吉原ばかり月の夜にさくらに酒のゑひ心見かへり柳あいの手に〔合〕
「梅のなにはにさくらのみやこ月の武蔵野信濃の雪もたまに見るゆゑ月雪花よ
「恋のかなめはあふよの首尾よそつと二階の九つばしごすいがらの火で顔を見るはかないが恋〔合〕そふじやいな
〔二上り〕「さんざしぐれかかやゝの雨かトウきましてどんおともせできてぬれかゝるしよんがへトウきましてどん
「せできてなせできてさまよ/\ヱヽヽヽせできてぬるゝかしよんがいなしどもなや
〔ナヲル〕「い内こそ色も香もあなたへ引ば
「こなたへもひくにひかれぬふりのそでやなぎにかけてかげかくすうねめがあとを慕ひ行く/\/\。

下の巻

「みきと聞く/\なも面白やしらゆきのそらに知られぬちるさくら〔合〕散れどもふれどもさらに身には寒からず〔合〕江戸の鏡花のにたる底ぬけ上戸の〔合〕くせとしてわけも永の日〔合〕ぶら/\と〔合〕我かげのうつるをめあてに〔合〕そり打かけ
〔三十〕「ナヽなんだあるけばあるくとまればとまるなぜおれが真似をしやアがる
「向ふはたしか〔合〕左きゝあるけばあるく止ればとまるコリヤどふじや
〔三十〕「ハヽわかつた〔合〕
「影法師
「花を三めぐりちら/\と〔合〕八重か一重か目がすはり〔合〕足はすはらぬ〔合〕土手伝ひ〔合〕お供にはぐれた酒機嫌
「よしだ通れば二階からナ招くしかも鹿子の振袖で閏のおとぎはつきたてぼたもちやはらかでいつそいもりの黒焼お薬なんぞに身を任せ奇々妙々〔合〕さつても奇妙長命寺
「つれを招いてきなこ餅あま口らしいじやあるまいか
〔粂三郎出〕「芸者姿の仇なりと〔合〕名にこそ立れさくら色ねぢ付られた返報にどこのかしこのきらい無くほつきあるきの駒下駄が〔合〕いさめば花がちるであろ
〔簑助出〕「いろにそやされ箱持といなの屋もどきじゆつくわいはいけもせぬ〔合〕役者物まねはやり歌〔合〕思ひ付せて引くきにもすこしはやいが〔合〕かきつばた
「イヨやまし/\有難い
「アレ悪口をと付はなし
「どつこい〔合〕
「あぶない〔合〕つまづく石もゑんのはし笑ひ合ふてぞ来りける
〔三十〕「モシ/\お前は旦那を船から上て何をして居なさつたよ
〔粂〕「イヽエわかしよりお前が旦那を
〔三十〕「サアわしや此花を見てその上お前の顔が花だ/\
〔みの〕「成程お屋敷さんは女にかけては
〔三十〕「イヤこれからおれが旦那になつてお主にいはふなら
「あたおいそれの浮気もの土地柄だけに小いさみの
「男にあじな目遣ひはなんぼぶんぬき奴でも又折々は長屋でもしこなされたる此粋様のはなげよもとはおかたじけそつくりおいてくん内島にあはぬ縁ならしよ事がねへじつにしよ事が〔合〕ないはいな
「久しいものじやコレ申し客あしらいもおもてむき「芸者商売はじめから得心づくでこふなつて心はじみな女房気も浮気な酒にまぎらゝして〔合〕座敷つとめて客さんの〔合〕機嫌をとるが珍らしいか三味線ひくのが不思議なか〔合〕これ〔合〕甚介も休み/\いはんしたがよいはいな
「酒に浮るゝおどけぶし
〔二上り〕「親父四角で息子は丸い銀の。
「銀のきせるでよくとふるサマヨトコセ
「おらが婆様は念仏はいはでとかくうき世は茶で世を渡るサマコトコセベカチヤ
「さればよいやなお客のくせとしてうけりや受ける程まうけにうけてすねたりひぞるが受にくいサツサ
「どふでも
「こふでも
「なんでもかでもかげでそしるをお前は知らぬが仏で
「いやしやんしよんがいな。やろか信濃の雪国へ
〔三下り〕「様は小溝の鰌や鯰へ〔合〕ぬらりくらりで気がしれぬ
「ちよいとそこらで若いは二度ない色とそばきりは延てはいかねへ〔合〕
「こよひあをとのやくだくしめてへ〔合〕せどのもゝの木立あかす
「そりやきた/\よめごのお入は鋲打乗物おそばのつきつぎかづきはたくさん向ふの玄関出迎ふ人じつがお手をとり/゛\ずつと通ればざしきは島台〔合〕
「むこさん上下〔合〕
「嫁御は振袖〔合〕
「ちよつぴりあたまに帽子「芸者商売はじめから得心づくでこふなつて心はじみな女房気も浮気な酒にまぎらゝして〔合〕座敷つとめて客さんの〔合〕機嫌をとるが珍らしいか三味線ひくのが不思議なか〔合〕これ〔合〕甚介も休み/\いはんしたがよいはいな
「酒に浮るゝおどけぶし
〔二上り〕「親父四角で息子は丸い銀の。
「銀のきせるでよくとふるサマヨトコセ
「おらが婆様は念仏はいはでとかくうき世は茶で世を渡るサマコトコセベカチヤ
「さればよいやなお客のくせとしてうけりや受ける程まうけにうけてすねたりひぞるが受にくいサツサ
「どふでも
「こふでも
「なんでもかでもかげでそしるをお前は知らぬが仏で
「いやしやんしよんがいな。やろか信濃の雪国へ
〔三下り〕「様は小溝の鰌や鯰へ〔合〕ぬらりくらりで気がしれぬ
「ちよいとそこらで若いは二度ない色とそばきりは延てはいかねへ〔合〕
「こよひあをとのやくだくしめてへ〔合〕せどのもゝの木立あかす
「そりやきた/\よめごのお入は鋲打乗物おそばのつきつぎかづきはたくさん向ふの玄関出迎ふ人じつがお手をとり/゛\ずつと通ればざしきは島台〔合〕
「むこさん上下〔合〕
「嫁御は振袖〔合〕
「ちよつぴりあたまに帽子をかぶつてさん/\盃
「謡でひつとりばんぜい/\ばんぜい/\ばん/\ぜい〔合〕
「そのあとは知らねへさつさとやらかせへ
「やらしやんせ〔合〕
「こちもねよやれ辻が花
〔二上り〕「佐渡とイヨコノ越後は佐渡と越後は筋向ひ〔合〕
「橋をイヨコノかきよやれ橋をかきよやれ船橋を〔合〕
「はしのイヨコノ下なる橋の下なる鵜の鳥が〔合〕小鮒くはへてぶりしやりと〔合〕
「面白や
〔ナヲル〕「浮立つそらも入相に花から花へわたしばへそゞめき*1立つてぞいそぎ行く。

*1 「そゞめき」異本「ぞめき」 [#wabb0853]
*その他の情報 [#w88059b3]
文政13年(1830)3月 松井幸三作詞 初世清元斎兵衛作曲
*関連項目 [#k2ca86df]
*タグ [#e8d45ec6]
*分類番号 [#h1c70e3a]
00-1331211-t5s1a400-0001
RIGHT:清元 土佐絵 歌詞