#author("2016-10-21T11:32:18+09:00","default:Tomoyuki Arase","Tomoyuki Arase")
#contents
*題名 [#xf3c5526]
嫁菜摘(よめなつみ)
*本名題 [#c07f53f6]
道行誰夕月(みちゆきとたれもゆうづき)
*詞章 [#n015756a]
**声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年) [#obded2ab]
(資料の題名『道行誰夕月』)
(資料目次に括弧書きで「おはや与兵衛」とある)
(資料の題名読み「みちゆきたれもゆうづき」)

『浮気黄鳥梅を捨て〔合〕
『隣歩きの戯歌も、胸にあたりの人目さへ、あやなき帯の凍解て
『見合す顔も今更に、おはや与兵衛は恥かしと、夕べの契〔合〕暗き身を、余所には知らで女夫ぢやと〔合〕噂も辛きみだけ苧や、麻苧と綽名もつゝましく〔合〕世継畷と聞からに、其の兄嫁と言訳も、涙ふりしく春雨に
『不図した事の間違で、斯うなつた二人が身の上、死なねばならぬと言ひながら、心中と浮名もたてば、尚々もつて済まぬ義理、お前はどうぞ生ながらへ、訳をとつくり兄者人へコレおはやさま
『復そんなこと言ふて下さんすか、なんぼ私が女子ぢやとて
『浮名は同じ罪科の〔合〕のがれぬ縁か露程も〔合〕互に訳も〔合〕難波江の、蘆の苅穂のひと夜さに〔合〕
『思ひ違のよしなしや、契し事は〔合〕薄く共
『心に嘘は情ない、流の果と〔合〕嘸や嘸
『おふくろ様のおさげすみ〔合〕
『十次兵衛様のお腹立〔合〕不義ぢやなけれど何とまあ、一人長らへ居られうぞ
『心の内を推量して
『とても因果と諦めて
『どうぞ一所に与兵衛さん
『ハテ何とせう是非がない、此の上は諸共に暮るを暫し
『いざとは言へど手もとらで、先へ立場を曲りがね渡しの方へと
〔二上り〕『こゝら在所にナアよいこの嫁菜〔合〕田芹摘むとて〔合〕畦道伝い〔合〕流飛越え一寸小褄を濡した、アヽしよんがいなア〔合〕
『あとにも軽き口拍子〔合〕身過世過や五六つ七つ〔合〕子供相手の商人が、サア取組だ〔合〕関と/\
『今が勧進大相撲〔合〕そりや濡髪に放駒〔合〕負けるなどつこいコリヤ/\/\/\〔合〕コリヤ可愛らしちよな娘、コレどうでんす
『オヤ〔合〕何しなさる置しやませ、見れば如才もなんぢやゝら〔合〕鴨や羽白は売りもせで〔合〕相撲取とはコリヤ可笑し、イヤ可愛鴉に〔合〕起されて、朝から晩までどつこい/\、足にまかせで気まかせに、蝶も遊ぶや若草に、引れ/\て来りける
『アヽこれ/\姉さん、見れば近所の娘御さうだが、草深い所に置くは惜いものだ、なんと江戸へ片付く気はごんせぬか
『そりやモウお江戸へは片付たいけれど、わし等がやうなものをどうして誰が
『イヤあるの、もし相談する気なら此の商人、なんとわしが女房に成気はごんせぬか
『オヤアノお前がオホヽヽヽヽ
『コレ/\こんな山水な商人だといつて、さう笑つたものぢやアあにエヽ見せたいな/\
『そりや何をへ
『おれが家をよ
『どんなで御座んすへ
『先やつがれが住家といつぱ、四方屋敷に棟高く〔合〕瑠璃の礎石珊瑚の梁〔合〕柱に蒔絵三重だすき、伽羅の欄間に花がつみ〔合〕釘隠しには黄金にて〔合〕蝶花形をと思ふたばかりさうゆかず
『九尺二間の裏家住、女房子にも家来にも〔合〕鼠の外は唯一人
『隣は按摩かた/\は煙管のつぶれと取換べにしよ〔合〕花売お婆に山ぶ殿〔合〕
『去程に茲にまた〔合〕大家のめい子まし/\て〔合〕思ひ染め茶の一張羅、つい綻びを〔合〕しほにして、その物差で惚れた気を
『つもつてどとぞ女房にと、取る手をはらひこれなもし、そんなちよ/\らは村方の、日待にこつそりつれ節で
『池のエヽ池の鰌奴が朝日に輝く夕日に棚引く、真菰の小蔭にひよいと出ちや〔合〕ぴよいとはね〔合〕二度さ出てはねたへ〔合〕
『はねたが何うした
『鰌と娘は
『はねるが賞翫
『さうだぞどつこい
『田舎踊のオヤ田舎踊の〔合〕可笑しらし、とぼけた色ぢや有べいにやア
『我を忘れし話のうしろへ、逃来る与兵衛をおわへるおはや、二人は此方に窺ふとも、知らずやう/\走りつき
『モシあれ程一所と約束して、誑して置て唯一人
『サア倶にはどうもと思ふ故、色々すれど此の上は是非に及ばぬ、よし心中と言はゞ言へ
『そんなら聞分け
『覚悟はよいか
『やれ待ちなせへ/\
『留ずとこの儘
『いやならぬ/\、もし訳は聞かねど添に添れず、心中で御座りませうが、さりとは悪い御了間
『死ずとどうぞ勘弁して
『それサ善は急げ悪は延ろだ、マア/\待つしやりませ/\
『ほんに江戸も田舎も色事の、果には二人心中とムヽそんならアノ此処辺にも
『サアしかも一昨年産土の、祭の晩げの事だモシ、離れまいぞと手サ引いて、死ぬ身もこはき
『藪の下〔合〕おとうか殿につまゝれて、夜つぴとぐるぐる道行に、常なき川をどんぶり/\こ〔合〕渡つて名代の小豆餅〔合〕
『蕎麦の馳走の挙句には、すつぺら坊主で朝風に〔合〕
『ひやいな命を生延て、目出度夫婦の道心坊
『我等は酒と女郎に、薬鑵で茹蛸手も足もぎつちり詰つた大晦日
『越すに越されぬ借銭の、淵へはまつて
『身を投ぎよか
『アヽ何うせうか正月は〔合〕雑煮も食つて〔合〕腹の春、命があればぢやごんせぬか
『鯨寄る磯虎伏す野辺も〔合〕エヽなんのいな〔合〕
『様と一所に暮そうなら〔合〕
『いかゞです〔合〕
『玉の台にや増しであろ
『その事/\〔合〕
『死で花実は〔合〕咲きやせまい
『ホウ南無三日が暮れた
『お二人さん
『異見を聞て暮六つの、鐘に打連れ急ぎ行く、見ず知らずの今の二人が、親切なるあの異見
『よう聞入れては居るけれど、ひと方ならぬ二人が身、又も妨げない内に
『さうぢやと既に草の上、露の命や奈何ならん/\
**国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」 [#c60c9b46]
(目次の題名『道行誰夕月(おはや与兵衛)』本文の題名『〔おはや/与兵衛〕道行誰夕月』)

(作者 桜田左交)

「うは気鶯梅をば捨てゝ〔合〕となりあるきのざれうたも〔地〕胸にあたりの人目さへあやなき帯の凍とけて〔源之助/粂三郎出〕「見合す顔も今更に〔合〕おはや与兵衛はぱづかしと夕べのちぎり〔合〕くらき身を余所には知らで女夫じやと〔合〕噂もつらきみだけ苧や麻苧と仇名もつゝましく世継なはてと聞くからに其兄嫁と言訳もなみだふりしく春雨に
「ふとした事の間違でかふなつた二人が身の上死なねばならぬと言ひながら心中と浮名も立ば猶々もつてすまぬ義理お前はどふぞ生きながらへ訳をとつくり兄者人ヘコレおはやさま
〔粂三郎〕「またそんな事いふて下さんすかなんぼわたしが女子じやとて
〔タヽキ〕「浮名は同じ罪科と退れぬ縁か露程も〔合〕互ひに訳も難波江の蘆のかりねの一夜さに〔合〕
「思ひ違ひの床の内抱締合ふた〔合〕はだと肌
〔カン〕「この手に嘘は。なさけない流れの果と〔合〕嘸やさぞ
〔粂三郎〕「お袋さまのおさげすみ〔合〕
「十次兵衛様のお腹だち〔合〕不義じやなけれど何とまあ一人ながらへいられふぞ
〔粂三郎〕「こゝろのうちを推量して
「迚も因果とあきらめて
〔粂三耶〕「どふぞ一緒に与兵衛さん
〔源之助〕「ハテなんとせふ是非がない此上は諸共に暮れるをしばし
「いざとはいへど手もとらで先へ立場を曲りかね渡しの方へと
〔二上り〕「こゝら在所にナアよい子の嫁菜〔合〕田芹つむとて〔合〕畦道伝い〔合〕流れとびこへちよつと小褄をぬらしたアヽしよんがいなア〔合〕
「跡にもかろき口拍子〔合〕身過ぎ世すぎや五六ツ七ツ〔合〕子供相手の商人がサア取組んだ〔合〕関と関
〔ナヲル〕「今が勧進大角力〔合〕そりや濡髪にはなれ駒〔合〕まけるなどつこいコリヤ/\コリヤ/\〔合〕コリヤかはゆらしちよな娘コレどうでんす
「ヲヤ何しなさるおかしやませ見れば如才もなんじややら〔合〕鴨や羽白は売りもせで〔合〕角力取とはコリヤおかしイヤおかし烏に〔合〕おこされて朝から晩までどつこい/\足に任せて気任せにヨイ蝶も遊ぶや若草にひかれて引れて来りける
〔三津五郎〕アヽこれ/\姉さん見れば近所の娘御そふだが草深い所に置くは惜しい物だなんと江戸へかた付く気はごんせぬか
〔紫若〕「そりやモウお江戸へはかたづきたいけれどわしらがよふな者をどふしてたれが
〔三津五郎〕「イヤあるの若し相談する気なら此商人なんとわしが女房になる気はごんせぬか
〔紫若〕「ヲヤアノおまへがオホヽヽヽホ
〔三津五郎〕「コレ/\こんな山水な商人だといつてそふ笑ふ物じやアないエヽ見せたいナ/\
〔紫若〕「そりや何をへ
〔三津〕「おれが内をよ
〔紫若〕「どんなでござんすへ
「まづやつがれが住家といつば四方屋敷に棟高く瑠璃のいしづへ珊瑚の梁柱に蒔絵三重だすき伽羅の欄間に花がつみ〔合〕釘かくしには黄金にて〔合〕蝶花形をと思ふたばかりそふゆかず
〔中カン〕「九尺二間の裏家住女房子にも家来にも〔合〕鼠のほかは〔合〕たゞ一人
「隣は按摩かた/\は煙管のつぶれととけべにしよ〔合〕花売おばゝに山ぶ殿
「さる程に爰にまた大家のめい子ましまして〔合〕思ひそめ茶の一張羅つい綻を〔合〕しほにしてその物さしで惚れた気を
「つもつてどふぞ女房にととる手をはらひこれなもしそんなちよ/\らは村方の日待にこつそりつれぷしで
「池のエヽ池のどせうめが朝日にかゞやく夕日にたな引まこもの小かげにひよいとでちや〔合〕ぴよいとはね二度さ出てはねたへ〔合〕
「はねたらどふした
「どぜうと娘は
「はねるがしやうかん
「そふだぞどつこい
「田含おどりのオヤ/\〔合〕おかしらし〔合〕とぼけた色じやあのるべいにやア
「われを忘れて咄しのうしろへ逃げ来る与兵衛をおはへるおはやふたりはこなたに伺ふとも知らずやう/\走りつき
〔粂三郎〕「モシあれ程一諸と約束してだまして置ていたゞ一人
〔源之助〕「サアともにはどふもと思ふ故色々すれど此上に是非に及ばぬよし心中といはゞいへ
〔粂三郎〕「そんならきゝわけ
〔源之助〕「かくごはよいか
〔三津五郎〕「やれまちなせへ/\
〔両人「〕とめずと此まゝ
〔三津五郎〕「いやならぬ/\もし訳は聞かねど添ふにそはれず心中でござりませうがさりとは悪い御了簡
〔紫若〕「死なずとどふぞ勘弁して
〔三津五郎〕「それサ善は急げ悪はのべろだマア/\待つしやりませ/\
〔紫若〕「ほんに江戸も田舎も色事の果には二人心中と
〔三津五郎〕「ムヽそんならアノこゝらにも
〔紫若〕「サアしかもおとゞしうぶすなの祭りの晩げの事だモシはなれまいぞと手サ引いて死ぬ身もこはき
「藪の下〔合〕おとふかどのにつままれてイヤ夜つぴとぐる/\道行に常なきかはをぞんぶり/\こ〔合〕渡つて名代の小豆餅
「蕎麦の馳走のあげくにはイヤすつぺら坊主で朝風に〔合〕
「ひやいな命を生きのびて目出度く夫婦の道心坊
「我等は酒と女郎に薬鑵でうで蛸手も足もぎつちり詰つた大晦日
「こすにこされぬ借銭のふちへはまつて
「身をなぎよか
「アヽどふしやうかこう正月は〔合〕雑煮も喰つて〔合〕腹の寿命があればじやごんせぬか
「鯨よる磯とらふす野辺も〔合〕エヽなんのいな〔合〕
「さまと一緒に暮さうなら〔合〕いかゞです
「玉の台にやましであろ
「その事その事〔合〕
「死んで花実は咲きやせまい
〔三津五郎〕「ホウ南無三日がれた
「お二人さん
「意見を聞いてくれ六つの鐘に打連れ急ぎ行く
「見ず知らすの今の二人が深切なるあの意見
「よふきゝ入れては居るけれど一方ならぬ二人が身またも妨げないうちに
「そふじやとすでに草の上つゆの命やいかならん/\。
*その他の情報 [#e59eb6ad]
文政6年(1823)1月 二世桜田治助作詞 初世清元斎兵衛作曲
*関連項目 [#qdd137be]
*タグ [#i3c74479]
*分類番号 [#e307026d]
00-1331211-y5m4n1t3-0001
RIGHT:清元 嫁菜摘 歌詞