#author("2016-10-21T11:39:19+09:00","default:Tomoyuki Arase","Tomoyuki Arase")
#contents
*題名 [#w309f9eb]
宗清(むねきよ)
*本名題 [#tbfc92c3]
恩愛瞔関守(おんあいひとめのせきもり)
*別題 [#qa7a9618]
雪の常盤(ゆきのときわ)
*詞章 [#u46fb19b]
**声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第4編 常磐津集(明治42年) [#x4df7f4b]
(資料の題名『恩愛瞔関守』)

(奈河本助述)

『君命受て宗清は、身を片糸の夜の関、守れば敵も夜あらしも、矢猛心の矢屏風に、隔て厳しき板廂
『降たる雪かな、野も山も皆白妙と、いつか頭に積る雪、寒さに負ぬ宗清が、六波羅よりの上意を受け、左馬頭が枝葉の子供、見つけ次第に首打と、清盛公の厳しき掟、其制札に松を手折て松を助くと、内府重盛殿の詞を給ふは、何様心あり気な御掟、兎にも角にも関守は、話相手のないので退屈、睡魔を避る此兵書、治世に乱を忘れぬため、彼の孫康が雪あかり、どりや友人を開いて見やうか
『古郷を出しにまさる涙かな、夢に別るゝ枕とは、実に定家が詠歌も
『身に呉竹の伏見なる、知辺の方を訪ねんと、紫竹を出てあとや先
『歩み習はぬ道芝の、雪の剣に裳さへ、紅色さそふ照草の、今は果敢なき常盤の前、いたはしや今若とて若君を両袖に、包めど余るうき事の、世をうし若は懐中に、凍る乳房を抱き寐の
『顔を見るさへいとゞ尚、歩みつかれておはしける
『母様あぶなう御座ります、必ず怪我して下さるなや
『ヲヽ今若よう言てたもつた、紫竹の里を出しより、たよりに思ふは其方ばかり、思へば昨日は昔にて、鏡が石に蔭たのみ、三人の子供はまうけても、御運拙き源の此行末、必ず平家の武士に、見咎められぬやうにしてたもや、兎角くいふうち伏見へも間はない、二人とも辛棒して歩いてたもや
『いへど乙若頑是なく
『もう歩くのはいやぢや/\
『アヽこれは又どうしたもの、今にねんねをさす程に、聞分て歩くものぢや、それ見や向ふが雪明りで、鳥羽の縄手や小幡の里
『軈て小幡の山越えて、馬はあれども徒歩徒跣、君を思へば行ぞとよ、あるくものには花紅葉、花の手車手を引て
『歩みかゝれば雪風に、笠を取れしつく杖の、雪に涙も玉鉾の、其道もせを行悩む
『ヤア夜中といひ怪しい女、稚子を大勢連て此関を越す気であらうが、此所は小幡の関
『義朝が残党詮議の為、宗清殿の厳しい堅め、サア有様に名乗つて通れ
『サア妾はもと都の市人、伏見の辺へ知辺あつて、尋ぬる内に此大雪、二人の子供に道はかゆかず、思はず日を暮したり、どうぞ情に此関を
『ヤアそうぬかす程猶怪しい、サア女めと立上れば
『ヤレ待て両人、聞けば子供を連た女とな、源氏の余類に似合の註文、身がぢき/\に糺してくれう
『何か思案の宗清が、氷る足駄に善悪の、邪正の道を踏分て、関の扉の庭づたひ
『賎しからざる上臈の供を連ず只一人、見れば稚い子供をつれ、ハテあでやかな
『屹とながめて居たりしが
『コリヤ女よく聞よ、今四海漸く穏かなるも、先達て亡びたる、左馬頭義朝、大勢の子供あつて、所々方々に漂泊なし、殊に五条の雑仕常磐が腹には、三人の男子あるよし、生置ては後日のため、見付次第に首うてと、新たに立し此関所、此宗清が眼力に、一目見たればのがれは無い、常盤なりと白状いたせ
『様子問れてふさがる胸
『エヽそんなら三人の子供がある故に、サア其疑義も子供故、子のある女は何国にも
『アヽ言れな其言訳、子供の事は扨置て、言ずと知た芙蓉の目眦、国色の聞えある常磐御前、ほからあらう筈がない、身が引立て福原殿へ
『すりや私をどうあつても、ほんに思へば此身の濡衣、是非もなき世の有様ぢやなア
『コリヤ者共、大事の落人関所の庭へ
『サア女め立う
『是非なく/\もあらしこに、引立られて常磐御前
『すき間もあらば遠近の、たつきも知ぬ関の庭、巣を離れたる黄鳥の
『吹雪に迷ふ風情なり
『もう斯なつては籠中の鳥、逃るとて逃しはせぬ、然し一人ならず三四人、思へば不憫な事でもある、ヲヽ幸ひ/\
『うしろに立し高札の雪打払ひ文字のあや
『コレ是を見よ、此高札に松を手折て松を助く
『操にかけし詞づめ、返事を松の高札に、手折るとも助くるとも
『此宗清へ仰せなれど
『生ては置ぬ落人の
『素性を明して助かるか、イヤサもし常盤なら手にかける、又松ならば助けるとも、思案極めて返答致せ
『サア夫は
『サア/\/\
『成程妾こそ其常磐、とても叶はぬ此身の行末、サア潔よう手にかけて
『ヲヽよい覚悟観念なせ
『抜放したる氷の刃、峰の吹雪に照りさそふ、光るは夜半の月代と、見紛ふうちにこは如何に、刃物はそれて谷影の、岩の間に雪散たり
『ヤヽそりや自を助けんとて
『松を助る制札の、掟厳しき清盛殿、松の操を破れといふ、謎が解れば其松の、雪も解よと君の厳命
『スリヤ其松に松の操を
『色かへぬ松色かへる松
『シテ三人の此子供は
『小枝も?に
『雪を払ふて
『直様これより、サヽ参らう、イザ御供と宗清に、助けられたる稚子の、其の源は谷の音、峰の谺と音信て、南柯の夢と覚めにける
*その他の情報 [#vef628e3]
文政11年(1828)11月初演 奈河本助作詞、三世岸沢式佐作曲
『貢之雪源氏贔屓』(みつぎのゆきげんじびいき)序幕
*関連項目 [#db42ebc3]
[[鞍馬山(長唄)]]
*タグ [#gabbe3e6]
#源平合戦物
*分類番号 [#t514b298]
00-1331200-m3n4k2y5-0001
RIGHT:常磐津 宗清 歌詞