#author("2016-10-21T11:03:57+09:00","default:Tomoyuki Arase","Tomoyuki Arase") #contents *題名 [#d22254c8] 浮名の立額(うきなのたてがく) *詞章 [#e40807dd] **声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年) [#vb34f961] (資料目次に括弧書きで「小三金五郎」とある) 〔二上り〕『朝顔の莟の内や宵の間の、翌の盛も待たで散る〔合〕露の命と萎む身は〔合〕 『三年焦れてやう/\と、逢ふて嬉しき心の誠、かき置く筆の命毛も〔合〕きれてちぎれて切文に、あの空ごとを嘸や嘸、道知ずとも思うはんしよが、言に言れぬ義理詰に 『思ひきつても唯一目、逢ふて死たい会ひたいわいなア 『便りもがなとそよと吹く、風が誘ふて風鈴の〔合〕音さへ胸もあとや先〔合〕若しやは憎き仇人が〔合〕今にぞ思ひしらはさへ、心の錆をはや寐刃、濁らぬ水に月の影、空は晴ても晴やらぬ、恋路の闇に迷ふ身の 『此方は筆のたてどさへ、涙と供に〔合〕繰言の参らせ候の薄墨は〔合〕 『未来の縁を結び置く、文の封に主様へ、女房小三と嬉しげに、書が此の世の筆のとめ 『男の額へよくも疵まで 『昨日にかはる飛鳥川、夢の浮世の夢とのみ 『思ふて見ても忘られぬ、恋といふ字が恨にて、愚痴と思へどつきつめし、男心も武家育 『二階に小三が書置を、見つけられじと〔合〕抜足し、屠所の歩みのはこ梯子〔合〕 『此方は血気の金五郎、ひかげにそれと屹と見て 『ヤア小三だな 『金五郎さんか 『思ひ知やと切付れば、其の言訳はと逃まどふ、逃さじものと追廻す、短き夜半に撞く鐘も、是ぞあの世の迎ひ鐘、乱るゝ心乱れ焼、きるに切られぬ輪廻の絆、愛着つもつて哀れなり 『まあ/\待て下さんせ、最善手詰の鯉魚の置物、お前に渡さん為ばかり、心にもない此の切文、ことにお国のお前の兄様、私を窃にお召なされ、だん/\との御教訓、退かねばならぬ仕義となり、愛想づかしを言ふたのも、推量して下さんせいなア 『そりや勘蔵が拵へ事、さうとは知らいで今の仕義、して又兄の丹三殿、そなたにあつかう義理詰も、此の置物が贋物では、所詮生ては居られぬ身、そなたは跡に長らへて、我が亡きあとをとうて呉れ、是小三頼んだぞよ 『あとゝふて呉れ頼むとは、そりや胴欲な金五郎さん 『愛想づかしの数々を、言ふて別れし私故、恨がなうて何とせう、無理とは更に思はねど、めぐり逢ふたは昨日今日、まだ肩揚の三年あと、船のうちなるお情を、忘るゝ暇もなまなかに、ませたやうでも何処やらに、稚心のあともなう、お顔も知らで立別れ、床しい故にこれ此処に 『誰とふしみと恥かしい、此の文身をお前ぞと、思ひ暮して朝夕に、二人添ふ気で他処外の〔合〕 『なんの殿御を待つものと、胸の誓は額堂の〔合〕 『男の文字に錠前を、しやんとをろした大願に、額の小三と人さんが、言はしやんすのを幸ひに、男ぎらいな野暮芸者、ひねり物ぢやと客人が、笑はるゝのが嬉しうて 『色気のないもお前故 『ことにお国の兄御様、わけての頼是非もなう、心になうて口さきで憎まれたさの縁切も 『義理にしがらむ 『術なさを、思ひやつてとばかりにて、口説涙ぞ道理なり 『其の心根を聞くからは、たとえ何処へゆくとても、夫婦と言へばあの世まで、何の見捨う離れはせじ、死なば諸共二世三世、変りはせじと力草 『言替したる夏菊と、ぬれ紫の杜若、色は変らぬ恋中を、書綴たる反古よせも、清元連の一節と後の稽古に残るらん **国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」 [#oa108c48] (目次の題名『浮名の立額(小さん金五郎)』本文の題名『〔小さん/金五郎〕浮名の立額』) 〔二上り歌ガヽり〕「朝顔のつぼみの内や宵の間に〔合〕あすのさかりもまたでちる露の命としぼむ身は 「三年こがれてやうくと逢ふて嬉しき心のまこと〔合〕かきおく〔合〕ふでの命毛もきれてちぎれてきれぷみにあのそらごとをさぞやさぞ道知らすとも思はんしよがいふに言はれぬ義理づめに 〔粂三郎〕「思ひ切つて只一目逢ふて死にたいあひたいはいな 「たよりもがなとそよと吹く風がさそふてふうれいの音さへむねも〔合〕跡やさきもしやはにくきあだ人が今にぞ思ひしらはさへ心のさびをはやねたば濁らぬ水に月かげの空は晴れても晴れやらぬ恋路の闇に迷ふ身の 「こなたは筆のたてどさへなみだと共に繰言のまいらせ候のうす墨は米原の縁を結び置く〔合〕文の封じに主さまへ女房小さんとうれしげに書くが此世の筆のとめ 〔菊五耶〕「男の額へよくも疵まで 「咋日にかはる飛島川夢の浮世のゆめとのみ思ふてみても忘られぬ恋といふ字がうらみにてぐちと思へど突つめし男心も武家そだち 「二階に小さんが書置にを見付られじと〔合〕ぬき足し屠所のあゆみのはこばしご 「こなたは血気の金五郎ひかげにそれとさつと見て 「ヤア小さんだな 「金五郎さんか 「思ひ知れやと切付くればその言訳はとにげまどふのがさじものと追ひまはす短き夜半につくかねもこれぞあの世の迎ひ鐘乱るゝ心乱れやき切るに切られぬ輪廻のきづな愛着つもつてあはれなり 〔粂〕「マア/\待つて下さんせ最前手詰の鯉魚の置物お前に渡さんためばかり心にもない此切れ文殊にお国のお前の兄さんわたしをひそかにお召しなされ段々との御教訓のかねばならぬしぎとなり愛想づかしをいふたのも推量して下さんせいな 〔菊〕すりや勘蔵がこしらへ事そふとは知らいで今の仕儀シテまた兄の丹三殿そなたにあつこふ義理づめも此置物が贋物では所詮生きては居られぬ身そなたは跡にながらへてわがなきあとをとふてくれこれ小さん頼んだぞよ 〔粂〕「あととふてくれ頼むとはそりやどふよくな金五郎さん 「あいぞづくしのかず/\をいふて別れしわたし故恨みがなふて何とせう無理とは更に思はねどめぐりあふたは〔合〕昨日今日〔合〕 「まだかたあげの三年あと船の内なるお情を忘るゝひまもなまなかに〔合〕〔カン〕ませたやうでもどこやらにおさな心のあどものふ〔合〕 「お顔も知らで立別れゆかしいゆへにこれこゝに 「たれとふしみとはづかしい此ほり物を〔合〕お前ぞと 〔カン〕「思ひくらして朝夕に二人添ふ気でよそほかの〔合〕なんのとのご持をつものと〔合〕むねの誓ひは額堂の男の文字に錠前をしやんとおろした大願に額の小さんと人さんがいはしやんすのを幸ひに男ぎらひな野暮芸者ひねり者じやと客人が笑はるゝのがうれしうて〔合〕いろけの無いもお前ゆへことにおくにの兄御さまわけでの頼み是非もなふこゝろにのふて口先で憎まれたさの縁切も〔合〕義理にしがらむ術なさを思ひやつてとばかりにてくどきなみだぞ道理なり 「其心根をきくからはたとへいづくへ行くとても夫婦といへばあの世まで 「なんの見すちやうはなれはせじ死なば諸共二世三世かはりはせじと力草 「いひかはしたる夏菊とぬれ紫のかきつばた色はかはらぬこひ中を書きつゞりたるほぐよせも清元連のひとふしと後の稽古に残るらん。 *その他の情報 [#p30d9750] 文政2年(1819)1月 *関連項目 [#c2d259c9] *タグ [#x60f0829] *分類番号 [#y66b0f41] 00-1331211-a3k2n1n5-0001 RIGHT:清元 浮名の立額 歌詞