#author("2016-10-21T11:31:42+09:00","default:Tomoyuki Arase","Tomoyuki Arase") #contents *題名 [#g1ca0891] 由縁の暦歌(ゆかりのこよみうた) *詞章 [#he8fcff8] **声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年) [#c12cf34e] (資料目次に括弧書きで「おさん茂兵衛」とある) (福森亭宇助述) 『おさん茂兵衛が中々は〔合〕実と誠を立て通す、柱暦も紙破れて 『やぶれかぶれとなる鐘も、たしか上野か浅からぬ〔合〕契も今は切文に〔合〕はや気もせきの業物を、心のねたば其の人の〔合〕行方尋ねて相惚れと 『おさんも同じ濡羽鳥〔合〕 『塒を出でゝしよんぼりと、世を秋雨の傘も〔合〕人目しのんであやぶ日、夫れも何故のきさりを、不義ぢやのなんの〔合〕かのへ申〔合〕 『けふはあしたのきのへ子と、知らでかはせし事始め 『その姫初め引かへて、今は命もほろぶ日、日も長かれと願ふたる〔合〕 『八十八夜は及びなき、年は十九と二十五を、名残の霜と見あぐれば〔合〕空はくろ日の暗き夜に、互の心すれ違ふ、雲の脚さへ行逢ふて〔合〕恋路の闇に迷ふ身の、はれて嬉しき月の顔 『ヤアおさんか 『茂兵衛さんか 『エヽおのれはなア/\、角太郎が方へ失ると親方からのアノ切文、今更さうして済まうと思ふか 『サア済まぬと言ふて、私や真実角太郎さんに 『いよ/\惚れて失る気か 『アイ知れた事いな 『心変りを聞くよりも、茂兵衛はせきに関の孫六、抜く手も見せずアイ思ひ知れよと言ふ間もしらは〔合〕此方は覚悟の心届いて落散る書置、目も月明り取あぐるを、やらじととめる女気も、かよはき腕の蔦かつら、尽ぬ縁のよみおくり 『スリヤ此の書置にあるを見れば、此の茂兵衛が難儀となつたる、曼陀羅をとり返さんため、心にもないアノ切文、愛想づかしを言つたのも、此の茂兵衛が手にかゝり 『死ぬる心でござんすわいなア 『其の心底を聞く上は、茂兵衛とても生て居られぬ人殺し 『そんなら一所に死んで下さんすか 『女房へ義理も世の噂も 『捨てゝ冥土の旅の空 『おさん仕度しや 『アイ 〔二上り〕『奇妙頂礼地蔵尊〔合〕あくしゆに出現したまひて、衆生の済度をなしたまふ、なまいだ/\ 『南無と覚悟はしながらも、又もや愚痴をくる数珠の、玉もおさんが気にかゝる〔合〕お内儀さんへ言訳も、夏の半の涼み舟〔合〕縁の橋間で逢ひ初て〔合〕外のお客は何のその、秋の七草ならねども〔合〕 『花の色香とそやされて、惚れた証拠の言ひがゝり〔合〕きかぬ起請も取り替し、恋にうきみを入黒子〔合〕茂兵衛命と掛香も、夫れさへ消えて仇し野の、露となる身ぢやないかいな〔合〕只何事も堪忍と、流石茂兵衛も倶涙、弱る心を取直し、互に覚悟の桜が馬場、既に散り行く其の所へ 『船頭佐吉は駆け来り 『お二人ながら死ぬには及ばぬ、おさんさまの切文で、才三が盗んだ曼陀羅は、喜蔵様の手に入りましたぞ 『スリヤ宝は手に入つたか 『何も彼も埒が明いて、お二人ともに添はれまするぞ 『エヽ忝けない 『今日の知死後をひきかへて〔合〕時を恵方のよろづよく、おさん茂兵衛が暦歌、由縁の末ぞ目出度けれ **国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」 [#sa19dbb1] (目次の題名『由縁の暦歌(おさん茂兵衛)』本文の題名『〔おさん/茂茂栄〕由縁の暦歌』) (作者 福森喜宇助) 〔下ギンハシリ〕「おさん茂兵衛が中々は実と誠を立てとふす柱暦もかみやれて〔合〕 〔菊五郎出〕「やぶれかぶれとなるかねも〔合〕たしか上野かあさからぬ〔合〕ちぎりもいまはきれぶみに〔合〕はやきもせきのわざ物を心のねたばその人の〔合〕ゆくへたづねてあいぼれと〔合〕おさんも同じぬれはどり〔合〕 〔田之助出〕「ねぐらを出てしよんぼりと〔長地〕世をあきさめのからかさも〔合〕人目忍んであやぶ日それもなにゆへのきさりを〔合〕不義じやのなんの〔合〕かのへさる〔合〕 「今日はあしたのきのへ子としらでかはせしことはじめ 〔カン〕「そのひめはじめひきかへて今は命もほろぶ日ひもながかれとねがふたる〔合〕 「八十八夜は及びなきとしは十九と廿五を名残の霜と見上れば〔合〕そらはくろ日のくらき夜に互の心すれちがふ雲の足さへゆきおふて恋ぢのやみに迷ふ身のはれてうれしき月のかほ 〔菊〕「ヤアおさんか 〔田〕「茂兵衛さんか 〔菊〕「エヽおのれはな/\角太郎が方へうせるとおやかたからのアノきれ文今更そふしてすもふと思ふか 〔田〕「サアすまぬといふてわたしや真実角太郎さんに 〔菊〕「いよ/\ほれてうせる気か 〔田〕「アイ知れた事いな 〔ハシリ〕「心がはりを聴くよりも茂兵衛はせきにせきの孫六抜く手も見せず〔合〕思ひ知れよと言ふ間もしらは〔合〕 こなたは覚悟の心とゞいて落ちる書置目も月あかり取上るをやらじと止める女気もかよはき腕のつたかづらつきぬゑにしかよみおはり 〔菊〕「スリヤ此書置にあるを見れば此茂兵衛が難儀となつたるまんだらを取返さんため心にもないアノ切れ文愛想づかしをいつたのも此茂兵衛が手にかゝり 〔田〕「死ぬる心でござんすわいな 〔菊〕「其心底をきく上は茂兵衛とても生きて居られぬ人殺し 〔田〕「そんなら一緒に死んで下さんすか 〔菊〕「女房へ義理も世のうはさも 〔田〕「すてゝ冥土の旅の空 〔菊〕「おさん支度しや 〔田〕「アイ 〔ニ上り〕「帰命頂礼地蔵尊〔合〕悪趣に出現したまひて衆生の済皮をなし給ふなまいだ/\ 〔クドキ〕「南無と覚悟はしながらも又もやぐちをぐる数珠のたまもおさんが気にかゝる 〔合〕「お内儀さんへいひかけも夏の半のすゞみ船 〔合〕「ゑんのはしまであひそめてほかのお客はなんのその秋の七くさならねども 〔カン〕はなのいろかとそやされて惚れた証拠のいひがゝり〔合〕きかぬきせうもとりかはし恋にうき身をいれぼくろ 〔合〕「茂兵衛いのちとかけがうもそれさへきへてあだし野の〔合〕 「露となる身じやないかいな〔合〕 「唯何事も堪忍とさすが茂兵衛もともなみだ〔合〕よはる心を取直し互にかくごのさくらがばゝ既に散り行くその所へ 「せんどう佐吉はかけ来りみの 〔助〕「おニ人ながら死ぬには及ばぬおさんさまの切れ文で才三が盗んだまんだらは喜蔵様の手に入りましたぞ 〔菊〕「スリヤ宝は手に人つたのか 〔みの〕「何もかも埓あいてお二人ともに添はれまするぞ 〔合〕「エゝかたじけない 「けふのちしごをひきかへて〔合〕ときをゑほうのよろづよしおさん茂兵衛がこよみ歌ゆかりの末ぞめでたけれ。 *その他の情報 [#v41ca24b] 文化13年(1816)9月 *関連項目 [#k1a8d4b9] *タグ [#xc2f2be0] *分類番号 [#c876ccc4] 00-1331211-y3k1r2n5-0001 RIGHT:清元 由縁の暦歌 歌詞