#author("2016-10-21T11:09:42+09:00","default:Tomoyuki Arase","Tomoyuki Arase")
#contents
*題名 [#o53a5165]
累(かさね)
*本名題 [#ee8dfda5]
色彩間刈豆(いろもようちょっとかりまめ)
*詞章 [#hc16bf31]
**声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年) [#vad69c0f]
(資料の題名『色彩間刈豆』)
(目次に括弧書きで「累与右衛門」とある)

(松井幸三述)

『思ひをも〔合〕心も人に染ばこそ、恋と夕顔夏草の〔合〕消ゆる間近き末の露、元の雫や世の中の、遅れ先立つ二道を
『同じ思に跡先の、別ちしどけも夏紅葉、梢の雨や〔合〕さめやらぬ、夢の浮世と行なやむ、男に丁度青日傘〔合〕骨になるとも何のその、跡を逢ふ瀬の女気に〔合〕恐い道さへ〔合〕やう/\と、互に忍ぶ野辺の草〔合〕葉末の露か〔合〕蛍火も
『若し、追手かと身繕ひ心関屋も跡になし、木下川堤につきにけり
『これ累、思ひ掛ない所へ、そなたは如何して来やつたぞ
『どうしてとは胴欲な、一所に死あうと言替したをお前一人覚悟の書置、一所に殺して下さんせいな
『切なる心は尤なれど、そなたの養父は預りの、撫子の茶入紛失故、殿様よりお咎うけ、夫さへあるにそなたと死んでは親への不孝、思ひあきらめ爰から早う帰つてたも
『言ふ顔つくづく打守り、ひよんな縁で此様に〔合〕つい斯うなつた〔合〕中ぢや故〔合〕
『勿体ない事ながら、去年の初秋盂蘭盆に、祐念さまのお十念、その時ふつと〔合〕見染めたが〔合〕
『ほんに結ぶの神ならで、仏の庭の新枕、初手から蓮の台とぞ〔合〕心で祝ふ菩提心、後生大事の殿御ぢやと〔合〕
『奥の勤の長局、役者贔屓の噂にも、どこやら風が成田屋を〔合〕
『お前によそへて楽しむ心、打交りたる騒ぎ歌〔合〕
『入墨子/\、起請誓紙は反古にもなろが〔合〕五月六月は万更反古にもなりやせない
『唄ふ辻占今の身に、当りて私が恥かしと、跡言ひさして口籠る
『ハテ是非に及ばぬ、夫程までに思ひ詰たそなたの心、可愛や腹の忰まで、此儘殺すも世の成行、不愍の者の心やなア
『深き心を白玉の、露の命を我故に〔合〕思へば便なき心やと〔合〕手を取りかはし歎きしが、せめて義理ある親達や、生の親へも他処ながら〔合〕今宵限の暇乞〔合〕不孝の罪は幾重にも、お許しあれと諸共に、川辺に暫し泣き居たる
『不思議や流に漂ふ髑髏、助が魂魄錆つく鎌、夫と見るより与右衛門が、心に覚あり/\と、しるしの鎌を引抜けば、ハツト累が美はしき、顔も忽ち悪女の相好、是も報か浅ましやと、立退く裳裾にとりついて
『それそのやうに他処外に、深い楽しみあればこそ、私をだまして胴欲な〔合〕
『若しやにかゝる恋の欲、兎角浮世が儘にもならば
『帯のやの字を前垂に、針打やめておとしばら〔合〕
『駒下駄はいて歩いたら、誠に/\〔合〕嬉しかろ〔合〕
『ならぬ先迄思ふのも、今更身で身が恥かしい、むごいわいのと取付て、変る姿を露知らず、色を含みしとりなりは、哀れにも又いぢらしや
『道理/\死ると言ふは皆詐り、国へ帰参の此の与右衛門、足手まとひと思へども、そなたを連てこれより直に
『そんなら一所に
『サアおじや
『いそ/\先へ忽ちに、邪慳の刃血汐の紅葉、龍田の川の瀬と変る、男の裾にしがみつき
『コリヤ私を誑して
『オヽ殺すのだ、仔細と言は是を見よと鏡に写せば
『エヽヤヽヽヽコリヤマア如何して此のやうに、私の顔が変りしはエヽ口惜しい
『コリヤ累、因果の道理をよつく聞け、汝が為には実の親、菊が夫の助を殺した其の報、廻り/\て其の顔の、変り果たは前世の約束、此の与右衛門は親の敵、これも因果とあきらめて
『成仏せよと無二無三、打つてかゝれば身をかはし
『のふ情なや恨めしや〔合〕身は煩悩の絆にて〔合〕恋路に迷ひ親への仇なる人と知ずして、悋気嫉妬の口説言、我と我が身に惚れ過ぎし〔合〕心のうちの面なや〔合〕辛き心は先の世の、如何なる恨かいまはしと〔合〕
『口説いつ泣いつ身を掻むしり、人の報のあるものか〔合〕なきものか、思ひ知れやとすつくと立ち〔合〕振乱したる黒髪は此世からなる鬼女のありさま〔合〕つかみかゝれば与右衛門も、鎌取直して〔合〕土橋の上〔合〕襟髪つかんで一ト抉り〔合〕情用捨も夏の霜、消ゆる姿の八重撫子〔合〕これや累の名なるべし、後に伝へし物語、恐しかりける次第なり
**国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」 [#nac077ff]
(目次・本文の題名『色彩間刈豆(かさね)』)

(作者 松井幸三)

「思ひをも心も人に染ばこそ恋とゆふがほ夏草の〔合〕きゆるまぢかき末の露元の雫や世の中のおくれ先立つ二道を
〔團十郎/菊五郎〕出「同じ思ひに跡先の別ちしどけも夏もみぢ梢の雨や〔合〕さめやらぬ〔合〕夢の浮世と行きなやむ男に丁度青日傘ほねになるとも何のそのあとをあふせの女気に〔合〕こはい道さへ〔合〕よふ/\と〔合〕互に忍ぶ野辺の草〔合〕葉末の露や螢火も
「若し追手かと
「身繕ひ心せきやも跡になし木下川堤に着きにけり
〔團〕「コレかさね思ひがけない所へそなたはどふして来やつたぞ
〔菊〕「どふしてとはどふよくな一緒に死のふといひかはしたをお前一人覚悟の書置一諸に殺して下さんせへな
〔團〕「切なる心は尤なれどそなたの養父は預りのなでしこの茶入紛失故殿様よりおとがめうけそれさへあるにそなたと死んでは親への不孝思ひあきらめ爰から早ふ帰つてたも
〔クドキ〕「いふ顔つくづく打まもりひよんな縁で此やうについこふなつた中じやゆゑ
「勿体ない事ながら去年の初秋うら盆に祐念様のお十念その時ふつと見そめたが〔合〕
「ほんに結ぶの神ならで仏の庭の新枕初手から蓮の台ぞと〔合〕心で祝ふ菩提心後生大事の殿御じやと〔合〕
「奥の勤めの長局役者贔負の噂にもどこやら風が成田屋を〔合〕
「お前によそへて楽しむ心おとし忘れに奥御殿打まじりたるさはぎ顔
「入ぼくろ/\起請誓紙は反古にもなろが五月六月はまんざらほぐにもなりやせない
「唄ふ辻占今の身にあたりてわたしがはづかしとあと言ひさして口ごもる
〔團十郎〕「ハテ是非に及ばぬそれ程迄に思ひ詰めたそなたの心かはいや腹の悴迄此まま殺すも世の成り行きふびんのものゝ心やなア
「深き心をしらたまの露の命を我ゆへに〔合〕思へば便なき心やと手をとりかはしなげきしがせめて義理ある親たちや生みの親へもよそながら今宵かぎりの暇乞〔合〕不幸の罪は幾重にもおゆるしあれと諸共に川辺にしばし泣きゐたる
「不思議や流れに漂ふ髑髏助が魂魄さび付く鎌それと見るより与右衛門が心に覚へあり/\としるしの鎌を引抜けばハツトかさねがうるはしき顔も忽ち悪女の相好是も報ひかあさましやと立退くもすそに取付いてそれそのよふによそ外に深い楽みあればこそわしをだましてどふよくな
「もしやにかゝる恋の欲とかく浮世がまゝにもならば
〔カン〕「帯のやの字を前垂に針打やめておとしばら
「駒下駄はいてあるいたら誠に/\嬉しかろ〔合〕
「ならぬ先迄思ふのも今更身で身がぱづかしいむごいはいのと取付いてかはる姿をつゆ知らず色をふくみし取なりはあはれにも又いぢらしや
〔團十郎〕「道理々々死ぬるといふは皆いつはり国へ帰参の此与右衛門足手まといと思へどもそなたをつれてこれより直にそんなら一諸に
「サアおじや
「いそ/\先へ忽ちに邪慳の刄血汐の紅葉龍田の川の顔とかはる男の裾にしがみつき
〔菊五郎〕「コリヤわたしをだまして
「ヲヽ殺すのだ仔細といふは是を見よと鏡にうつせば
「エヽヤヽヽコリヤマアどふして此やうにわたしの顔がかはりしはエゝ口惜しい
「コリヤかさね因果の道理をよつく聞け汝が為には実の親菊の夫の助を殺したそのむくいめぐり/\て其顔のかはり果てたは前世の約束此与右衛門は親の敵これも因果とあきらめて
「成仏せよと無二無三打てかゝれば身をかはし
〔カン〕「のふ情なやうらめしや身は煩悩のきづなにて〔合〕恋にまよい親々の仇なる人と知らずして悋気嫉妬のくどき事我とわが身にほれ過ぎし心の内のおもてなやつらき心はさきの世のいかなる恨かいまわしと
「くどいつ泣いつ身をかきむしり人の報ひのある物か〔合〕なき物か思ひ知れやとすっつと立ち〔合〕ふり乱したる黒髪は此世からなる鬼女の有様〔合〕つかみかゝれば与右衛門も鎌取直して〔合〕土橋の上襟髪つかんで一抉なさけ用捨もなつの霜きゆる姿の八重なでしこ〔合〕これやかさねの名なるべし後に伝へし物語おそろしかりける次第なり。
*その他の情報 [#yc7e2bb9]
文政6年(1823)6月 松井幸三作詞 清元斎兵衛作曲
*関連項目 [#x913d33a]
*タグ [#h7a08d26]
*分類番号 [#m27612fc]
00-1331211-k1s1n400-0001
RIGHT:清元 累 歌詞