#author("2016-10-21T11:07:39+09:00","default:Tomoyuki Arase","Tomoyuki Arase")
#contents
*題名 [#zd10b217]
落人(おちゅうど)
*本名題 [#c874de29]
道行旅路の花聟(みちゆきたびじのはなむこ)
*別題 [#p1bae513]
お軽勘平(おかるかんぺい)
*詞章 [#ebf9f78f]
**声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年) [#u54e7fec]
(資料の題名『道行旅路の花聟』) 

(三升屋二三治述)

『落人も、見るかや野辺に若草の〔合〕芒尾花はなけれども、世を忍び路の旅衣、着つゝ慣にし振袖も〔合〕何処やら知れる人目をば、隠せど色香梅が花〔合〕散りても跡の花の中、いつか故郷へ〔合〕帰る雁、まだはな寒き春風に〔合〕柳の都〔合〕あとに見て、気も戸塚はと吉田橋、墨絵の筆に夜の不二、余所目に夫と影暗き、鳥の塒を辿り来る
『鎌倉を出でやう/\と、爰は戸塚の山中、石高道で足は痛みはせぬかや
『何のそれよりはまた行先が思はれて
『さうであらう、然し昼は人目を憚る故
『幸いこゝの松蔭で
『暫しがうちの足休め
『ほんに夫れがよいわいなア
『何も訳なき憂さはらし、憂が中にも旅の空、初時鳥明近く
『色で逢ひしも昨日今日、堅い屋敷の御奉公〔合〕あの奥様のお使が〔合〕二人が塩谷の御家来で〔合〕その悪縁か白猴に〔合〕よう似た顔の〔合〕錦絵の
『こんな縁が唐紙の、鴛鴦の番ひの楽しみに〔合〕
『泊り/\の旅籠屋で、ほんの旅寢の仮枕、嬉しい中ぢやないかいな
『空さだめなき花曇、暗き此身の繰言は、恋に心を奪はれて、お家の大事と聞いた時〔合〕重き此身の罪科と、かこち涙に目もうるむ
『よく/\思へば跡先の、わきまへ無く爰まで来たけれども、主君の大事を余所にして此の勘平はとても生ては居られぬ身の上、そなたは云はゞ女子のこと、死後のとむらひ頼むはお軽去らば
『あれ又其の様な事言はしやんすか、私故にお前の不忠、夫が済ぬと死なしやんしたら、私も死ぬるその時は、アレ二人心中ぢやと、誰がお前を褒めますぞへ、サ爰の道理を聞分けて、一と先私が在所へ来て下さんせ、父さんも母さんもそれは/\頼母しいお方、もう斯うなつた因果ぢやとあきらめて、女房の言ふこともちつとは聞いて呉れたがよいわいなア
『夫其の時の、狼狽者には誰がした〔合〕みんな私が心から、死ぬる其の身を〔合〕長らへて〔合〕
『思ひ直して親里へ、連て夫婦が〔合〕身を忍び〔合〕
『野暮な田舎の〔合〕暮しには、機も織り候賃仕事、常の女子と言れても、取乱したる真実が〔合〕
『やがて届いて山崎の、ほんに私が〔合〕ある故に
『今のお前の憂き難儀、堪忍してと許りにて、人目なければ抱きつき、言葉に色をや含むらん
『成程聞届けた、夫程までに思ふて呉れるそちが親切、然しわが身の親達へ面目ない、ひと先立超え時節を待つて御詫せん
『そんなら聞届けて下さんすか、嬉しいぞへ
『サア仕度しやれ
『身拵する其の所へ、家来引連れ鷺坂伴内
『ヤア/\勘平、うぬが主人の家の断絶其の中で、お軽をつれて駆落か、うまいなうまいな、ちつと此方の言分があれば、お軽を渡して縄かゝれ
『やらぬと掛る家来を投げ退け、四人がゝりの桜狩
『桜々といふ名に惚れて〔合〕どつこいやらぬは〔合〕
『そりや何故に〔合〕
『しよせん〔合〕お手には入らぬが花よ〔合〕
『そりやこそ見たばかり〔合〕夫では色にはならぬぞへ〔合〕
『桃か/\と色香に惚れて〔合〕
『どつこいやらぬは〔合〕
『そりや何故に〔合〕
『しよせん儘にはならぬが風よ〔合〕
『そりやこそ他愛ない〔合〕
『夫では色には〔合〕ならぬぞへ
『口のへらない鷺坂は〔合〕腰をかゝへてこそ/\と、命から/゛\逃て行く
『彼を殺さば不忠の上に重ぬる罪科、最早明方人目にかゝらば二人が身の上
『あれ山の端の
『東に白む
『横雲に
『塒を離れ鳴く烏、可愛/\の夫婦連、先は急げど心は跡へ、お家の安否如何ぞと、案じ行くこそ道理なれ/\
**国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」 [#aec23d8c]
(目次の題名『道行旅路の花聟(落人)』本文の題名『〔おかる/かん平〕道行旅路の花聟(落人)』) 

(作者 三枡屋二三治)

「落人も〔地〕見るかや野辺に若草の〔合〕〔長地〕すゝき尾花はなけれども世を。忍び路の旅衣。きつゝなれにし振袖も〔合〕どこやら知れる人目をばかくせど色香梅が花〔合〕ちりても跡の花のなか。いつか。故郷へ帰る雁〔合〕まだ花さむき。春風に〔合〕柳の都あとに見て。気も戸つかはと吉田橋。すみゑの筆によるの富士〔合〕よそ目にそれとかげくらき。鳥のねぐらをたどりくる
〔海老蔵〕「鎌倉を出てやう/\とこゝは戸塚の山中石だか道であしは痛みはせぬかや
〔菊五郎〕「なんのそれよりはまだ行先が思はれて
〔海老〕「そふであらふしかし昼は人目を憚る故
〔菊〕「幸ひこゝの松かげで
〔海老〕『しばしがうちの足やすめ
〔菊〕「ほんにそれがよいはいなア
「何も訳なきうさはらし。うきが中にも旅の空〔合〕はつ時鳥。あけ近く
〔クドキ〕「いろで逢しも昨日今日〔合〕かたいやしきの御奉公〔合〕あの奥さまのお使が〔合〕二人がゑんやの御家来で〔合〕その悪縁か白ゑんに〔合〕よふ似た顔のにしきゑの
〔カン〕「こんなゑにしがから紙の鴦のつがひのたのしみに〔合〕
「とまり/\のはたごやでほんのたびねのかりまくら〔合〕うれしい中じやないかいな〔合〕
「空定めなき花ぐもり。くらき此身のくりごとは〔合〕恋に心を〔合〕うばはれてお家の大事と開た時〔合〕おもき此身のつみとがとかこち涙に目もうるむ
〔海老〕「よく/\思へばあとさきのわきまへなくこゝ迄は来れども主君の大事を除所にして此勘平はとても生きては居られぬ身の上そなたはいはゞ女子の事死後のとむらひ頼むはおかるさらばじや
〔菊〕「あれまだその様な事言はしやんすかわたし故にお前の不忠それがすまぬと死なしやんしたらわたしも死ぬるその時はアレ二人心中じやとたれがお前をほめますぞへサこゝの道理を聞別けて一先づわたしが在所へ来て下さんせとゝさんもかかさんもそれは/\頓母しいお方もうこうなつたが囚果じやとあきらめて女房のいふ事もちつとは聞いてくれたがよいはいな
〔クドキ〕「それその時の。うろたへ者にはたれがした〔合〕みんなわたしが心から死ぬるその身を〔合〕ながらへて
〔カン〕「思ひ直して親ざとへつれて夫婦が身をしのび
〔タヽキ〕「やぼな田舎のくらしには機も織り候〔合〕賃仕事。つねの女子といはれてもとり乱したる真実が
「やがて届いて山崎のほんにわたしがあるゆゑに〔合〕
「今のお前のうきなんぎ堪忍してとばかりにて人目なければ抱き付きことばに色をや含むらん
〔海老〕成程聞届けたそれ程までに思ふてくれるそちが親切しかし我身の親たちへ面目ない一先づ立越え時節を待つてお詫せん
〔菊〕「そんなに聞届けて下さんすかうれしいぞへ
〔海老〕「サヽ仕度しやれ
「身ごしらへする其処へ家来引つれ鷺坂伴内
〔梅五郎〕「ヤア/\勘平うぬが主人の家の断絶その中でおかるをつれてかけおちかうまいな/\ちつとこちに言分あればお
かるを渡して繩かゝれ
「やらぬとかゝる家来を投げのけ四人がゝりの桜がり
「さくら/\と。いふ名にほれて〔合〕どつこいやらぬは〔合〕そりやなぜに〔合〕しよせん〔合〕お手にはいらぬが花よ〔合〕
「そりやこそ見たばかり〔合〕
「それではいろには〔合〕ならぬぞへ〔合〕
「もゝか/\と色香にほれて〔合〕
「どつこいやらぬは〔合〕
「そりやなぜに〔合〕
「しよせんまゝにはならぬが風よ〔合〕
「そりやこそたはいない〔合〕
「それではいろには〔合〕ならぬぞへ
「口のへらない鷺坂は〔合〕腰をかゝへてこそ/\と命からがらにげて行く
〔海老〕「彼を殺さば不忠の上にかさなるつみとがもはやあけがた人目にかゝらば二人が身の上
〔菊〕「アレ山のはの
〔海老〕「東がしらむ
〔両人〕「よこぐもの
「ねぐらを放れなくからすかはい/\の女夫づれ先はいそげと心は跡へ御家の安否如何ぞと案じ〔三重〕行くこそ道理なり/\。
*その他の情報 [#db677991]
天保4年(1833)3月初演 三升屋二三治作詞 初世清元栄次郎作曲
『仮名手本忠臣蔵』の一幕
*関連項目 [#gc8d9e57]
*タグ [#z3cc5591]
#忠臣蔵(三段目)
*分類番号 [#qbf91f9a]
00-1331211-a5t2y3a3-0001
RIGHT:清元 落人 歌詞