#author("2016-10-21T11:22:16+09:00","default:Tomoyuki Arase","Tomoyuki Arase")
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*題名 [#jfff8050]
袖浦誓中偕(そでがうらちかいのなかなか)
*別題 [#sd04c8a9]
袖浦誓仲偕(そでがうらちかいのなかなか)
*詞章 [#m955c111]
**声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年) [#z96e804e]
(桜田治助述)

『添れまいとて苦にせまいもの、命ありやこそ花が咲く、しよんがへ、そでにお駒と次郎兵衛が、死ぬる覚悟に引きかへて、今日は浮たる女夫連れ
『心も空もいつの間に、はれて目出度中となり、結句手に手も引かねて、跡や川崎ざうしきを、過ぎて蒲田に待たるゝ梅も、やがて笑顔で大森の、名さへ嬉しき枕橋〔合〕水に二人が寐姿の、陽炎ふまだき竹火縄、吸付煙草も憚りと、岩井でそれと〔合〕三津五郎〔合〕イヨ大和屋に大和屋と、行きかふ人の仇口も、聞かぬふりして黄八丈、襟にかけたる水晶の〔合〕数珠も子持と〔合〕数々の、麦藁細工しゆろの馬ほんにおみやによいとや申す、よい此の春は何一つ、ふさぐことなき道行に、いそ/\として来りける
『モシ次郎兵衛さん、互にひとつお屋敷に、勤めるうちから言ひかはし、子まであるその中へ、問ひ談合もある事か、私へ聟の相談も、ふりかはつてのお前と女夫
『サア白木屋の手代分も、紛失の刀が手に入つたれば、此の身も元の侍に、立ちかへつた尾花甚三
『ほんにもう/\何もかも、一度にすんで此の様な、目出度い嬉しい事は御座んせぬ、これと言ふのも御願をかけた
『サアそのお蔭ぢやと思ふ故、そなたと倶に二人連れ
『大師河原も有難き、光明真言真実に、女房大事と〔合〕今も尚、拝むは夜の厄難に、まけず息災延命と〔合〕祈るも廿六郷の〔合〕
『私は色に堅ぼつけ、あの川端の祖師さんへ、日に千遍のお題目、唱へて無理にお願を〔合〕かけしや袖の濡れた同士、思ふた通りこの様に、夫婦になつたも御利益と、お礼参りに又よくな、御願を結んだその足で、外へ参るはほう/゛\と、定めしお叱りなされうが、片時傍を離るゝが、厭身な奴と男気に〔合〕うるさからうが一所にと、思ひ大井の中々に〔合〕深くも見ゆる〔合〕白浪の、荒井が崎を横になし、粗朶まだ寒き浜風も、松に音する鈴が森、ほんに是まで此の磯へ、なき名を流せし其の内に、八百屋お七は恋故に、莟の花を夜桜と、こがれて散し果敢なさを、此の身に比べゆふべまで、可愛人丸桜にも、あひたきざくら逢はれずは〔合〕どう塩竃と其の聟を、桐ヶ谷でもあらうなら、白木屋駒と江戸中へ、ひよんな噂の仇名草、エヽ何をいはれぬ御親切、それは昔の伊達娘、今の女はどのやうな〔合〕義理約束があらうとも、まさかの時はおいさらば、いかに戸ざゝぬ御代ぢやとて、心にまでも情なしと、わざとじらしに乗せられて、お駒はその儘すがりつき合いそりや〔合〕聞えませぬ甚三さん〔合〕お前と私がその中は、昨日や今日の事かいな〔合〕まだお屋敷の奥勤、忘れもやらぬ正月の、しかも若菜の祝儀の夜、御ぜんがすぐに節付て、小倉の歌の総踊〔合〕天智天皇秋の田の〔合〕刈穂の庵の苫をあらみ我が衣手は露に濡れつゝ〔合〕それから跡が御酒宴の、入乱たを幸ひに〔合〕恋のいろはを袂から、袖へ頼んで言ひかはし〔合〕二世も三世も先の世かけて、誓ひし中ぢやないかいな〔合〕それに今更気を知らぬ、常の女夫か何ぞそのやうに、そんな事を言ひさして、かこち涙ぞ誠なれ
『アヽコレ/\あやまつた/\、今のは一寸じらしたもの、腹が立つたら堪忍しや/\
『そんなら今言はしやんしたは
『嘘でなうてよいものかいの
『エヽ嬉しう御座んす
『互に抱き月代も、はやさし合の隈もなく、よみぢの契ぞ面白き
**国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」 [#j3a0cb1f]
(目次の題名『袖浦誓仲偕(おこま次郎兵衛)』本文の題名『〔おこま/次郎兵衛〕袖浦誓仲偕』)

(作者 桜田治助)

〔二上り〕「そはれまいとて苦にやせまいもの命ありやこそ花が吠くしよんがへ
〔ナヲル〕「既にお駒と治郎兵衛が死ぬる覚悟に引かへてけふは浮いたる女夫づれ
〔三津五郎/半四郎〕出「心もそらもいつのまに晴れて目出度き中となりけつく手に手も引かねて跡や川さきぞふしきを過ぎて蒲田にまたる梅もやがてゑがほで大森の名さへうれしきまくらばし〔合〕水にふたりがねすがたのかげろふまたきたけ火縄吸付煙草もはゞかりと岩井でそれと三津五郎イヨ〔合〕やまとやに/\と行かふ人のあだ口も聞かぬふりして黄八丈襟にかけたる水晶の数珠も子持とかず/\の麦藁細工しゆろの馬ほんにおみやによいとや申すよい此春は何一つふさぐ事なき道行にいそ/\として来りける
「モシ治郎兵衛さん互に一つお屋敷につとめる内からいひかはし子迄ある其中へといだんがふもある事か私へむこの相談もふりかはつてのお前と女夫
〔三津〕「サア白木屋の手代分も紛失の刀が手に入つたれば此身も元の侍に立かへつたる尾花甚三
「ほんにもふ/\何もかも一度にすんで此やうな目出度いうれしい事はござんせぬこれといふのも御願をかけた
「サアそのおかげじやと思ふ故そなたと共に二人づれ
「大師がはらもありがたき光明真言〔合〕真実に女房大事と今もなを拜むは夜の厄難にまけず息災延命といのるも二十六郷の
「わたしは色にかたぼつけアノ川ばたの祖師さんへ日にせんべいのお題目唱へて無理にお願ひを
〔カン〕「かけしや袖のぬれたどし思ふた通り此やうに夫婦になつたも御利益とお礼参りにまたよくな御願を結んだそのあしで外へまいるはほう/゛\と定めしおしかりなさりやうがかた時そばをはなるゝがいやみなやつと男気にうるさからうが一錯にと思ひ大井の中々は深くも見ゆる白波のあら井が崎をよこになしひゞまださむき浜風も松に音する鈴が森
「ほんにこれまで此いそへなき名をながせしその内に八百屋お七は恋故につぼみの花を夜桜とこがれて散りしはかなさを此身にくらべゆふべまでかはい人丸ざくらにもあひたきざくらあはれずばどふしほがまとそのむこを桐がやつでもあらふなら白木屋お駒と江戸中へひよんなうはさのあだなぐさ
「エヽなにをいはれぬ御親切それは昔の伊達娘今の女はどのやうな
「義理約束があらふとも
「まさかの時はおいさらばいかに戸ざさぬ御代じやとてこゝろにまでもじやうなしとわざとじらしにのせられて
「おこまはそのまゝすがりつきそりや聞へません甚三さんお前とわたしがその中は昨日や今日の事かいな
「まだお屋敷の奥づとめ忘れもやらぬ正月のしかも若菜の祝儀の夜御前がすぐに節付けて小ぐらのうたのそうおどり
「天智天皇秋の田の刈穂のいほのとまをあらみ我衣手はつゆに
「我衣手は露にぬれつゝ
「それからあとが御洒宴の入乱れたを幸ひに
「恋のいろはを袂から袖へ頼んでいひかはし二世も三世もさきの世かけて誓ひし中じやないかいな〔合〕
「それに今さら気をしらぬつねの女夫かなんぞのやうにそんなことをといひさしてかこち涙ぞまことなれ
〔三津〕「アヽこれ/\あやまつたあやまつた今のはちよつとじらしたもの腹が立つたら堪忍しや堪忍しや
〔半〕「そんなら今いはしやんしたは
〔三津〕「うそでのふてよい物かいの
〔半〕「エヽ嬉しうござんす
「互にいだき月代もはやさし〔合〕のくまもなく夜道の契りぞおもしろき。
*その他の情報 [#ff0024f3]
文化8年(1811)春
*関連項目 [#l1b35b29]
*タグ [#nc5cbcd9]
*分類番号 [#tb5b939e]
00-1331211-s5d4g1a3-0001
RIGHT:清元 袖浦誓中偕 歌詞