#author("2016-10-21T11:39:30+09:00","default:Tomoyuki Arase","Tomoyuki Arase")
#contents
*題名 [#k1b0354b]
戻橋(もどりばし)
*本名題 [#sbaaf059]
戻橋恋角文字(もどりばしこいのつのもじ)
*詞章 [#z63f9e35]
**声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第4編 常磐津集(明治42年) [#zee4fd10]
(河竹黙阿弥述)
*題名 [#E688015301]
戻駕(もどりかご)
*本名題 [#E688015309]
戻駕色相肩(もどりかごいろにあいかた)
*詞章 [#E688015303]
**声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第4編 常磐津集(明治42年) [#E688015304]
(資料の題名『戻駕色相肩』)
(資料の題名読み「もどりかごいろのあいかた」) 

『夫れ普天の下卒土の浜、王土にあらぬ所なきに、何国に妖魔の棲けるか、睦月の頃より洛中へ、悪鬼顕はれ人をとり、夜は往来の人もなし
『去ば内裡の警衛に、都登りし源の、頼光朝臣は暇なく、去頃深く語らひし、維仲卿の姫君へ、便りもなさで在せしが
『今日しも渡辺源氏綱、使に立し帰り道、卯の花咲て白々と、月照渡る堀川の、早瀬の流れ落合て、水音凄き戻橋
『武威逞しき我君も、恋は心の外にして、兼々語らひ給ひたる、維仲卿の姫君へ、密々の仰せ蒙りて、路次の用意に御秘蔵の、髭切の太刀賜りしは、武門の誉身の面目、片時も早く立帰り、彼の御方の御返事を、我君へ申上げん
『夜更ぬ内にと主従が、行んとなせし後より、一吹き落す青嵐に、岸の柳の騒がしく、心ならねば振返り
『ハテ心得ぬ、妖怪出る取沙汰に、夜に入りては表を閉し、男子すら通行せぬに、女子の来るはいぶかしゝ
『扨は我等を威さんと、姿を変て妖怪が、爰へ来ると覚えたり、幸ひなるかな打取つて
『君へ土産にまゐらせん
『二人の者にうち囁き
『機密を授け退けて
『己れ妖怪ごさんなれ
『太刀引そばめほの暗き、木下蔭へぞ入にける
『又叢立し雨雲の、蔭もる月をよすがにて
〔三下り〕『たどる大路に人影も、灯影も見へず我影を、若や人かと驚きて、被衣に身をば忍ぶ摺、けふの細布ならずして、女子心に胸合ず、思ひ悩みて来りける
『卯月の空の定めなく、降ぬ内にと思へども、爰は一条の戻橋、見れば往来ふ人もなく
『アヽ便りにもなやと佇みて、暫し休らひ居たりける
『綱は小蔭を立出て
『女性は何れへ参られるぞ
『妾は一条の大宮より、五条のわたりへ参りまするが、唯一人故夜道が恐く、爰に佇み居りました
『恐いと申すは尤もなり、五条のわたりへ参るとあらば、某送つて遣はさう
『御詞に従ひますれば、お伴ひ下さりませ
『折から空の雲晴て、月の光に見かはす顔
『ハテあでやかな
『水に写りし影を見て
『ヤヽ今水中へ映りし影は
『エヽ
『夜更ぬ内にいざとく/\
『西へ廻りし月の輪に、遠く望めば愛宕山、北野は近く清滝の、森を越え来る時鳥、初音床しく振返り、見上る顔にはら/\と、樹々の雫も雲運ぶ、雨かと暫し立休らひ
『歩き馴ぬ夜道にて嘸草臥し事ならん
『否妾よりあなたこそ、足弱をお連なされ、お草臥御座りませう
『暫くこれで憩はれよ
『連立つ道に馴易く、今は隔ても中空の、朧も春の名残かな
『都人とは言乍ら、いとも優しき形風俗、御身が父は何人なるぞ
『父は五条の扇折、舞を好みて舞し故、妾も稚き頃よりして、教へを受しが身の徳に、此程迄も或る御所に、お宮仕を致しました
『恥しながら某は、未だ舞を見たる事なし、一さし舞を見せられまいか
『お送り下さるそのお礼に、只今御覧に入れませう
『女性は扇借受て、会釈をこぼし進み出で
『空も霞みて八重一重、桜狩する諸人が、群つゝ爰へ清水や、初瀬の山に雪と見し、花の散り行く嵐山、惜む別れの春過て、夏の初めに後れにし、花も青葉の更衣、樹々の翠の美しや
『イヤ面白き事なりしぞ、斯る技芸のある者を、妻に持なばよき楽しみ
『言を此方ばよきしほど
『定めてあなたは奥様を、お持なされて御座りませうな
『未だ妻は娶らぬが、見らるゝ通りの不骨者、誰も妻になりてがない
『何無いことが御座りませう
『お情深きお心に今宵まみへし妾さへ、縁を結ぶ露もがな、思ふ恋路の初蛍
『言出かねて胸焦し、若葉の闇に迷ふもの、都女郎は取分て
『姿優しき花菖蒲、引つ引れつ沢水に、袖も濡にし事ならん
『夫は御身の思ひ違ひ斯る名もなき田舎武士、誰が思ひをかけやうぞ
『イエ/\立派なお名故に
『何立派な名とは
『当時内裡を警衛に、都へ登りし源の、頼光朝臣の身内にて、渡辺源氏綱殿故
『ヤ如何致して其名をば
『恋しく思ふ殿御故、とくより存じて居りまする
『恋しく思ふと言は偽り御身が我名を存ぜしは妖魔の術であらうがな
『星をさゝれて打驚き
『何妖魔の術とは
『?き女に化するとも、其本性は悪鬼ならん、なんと
『汝は心附ざしりが、月の光りに映りたる、影は怪しき鬼形なりしぞ
『ヤア
『其本性顕はせよ
『言に妖女も忽ちに、憤怒の相を顕はせば
『後に窺ふ郎党が観念せよと、組附を、事とも為ず振払ひ、
『我は愛宕の山奥に、幾年棲て天然と、業通得たる悪鬼なり、車輪の如き目を見開き、炎を吐し有様は、身の毛もよだつ許りなり
『扨こそ悪鬼でありしよな
『イデ此上は汝をば我隠家へ連行ん
『小癪な事を
『引立行んと立かゝれば、綱は生擒呉んずと、勇力振ふ時しもあれ
『一天俄かに?曇り、振動なして四方より、黒雲覆ひ重りて、綱が襟上むんずと握み
『砂石を飛す暴風に、つれて虚空へ引上れば
『髭切の太刀抜放し、鬼の腕を切払ひ、どつと落たる北野の廻廊
『悪鬼は群がる雲隠れ、光を放ちて失にけり
*その他の情報 [#na3949ee]
明治22年(1889)初演 河竹黙阿弥作詞 六世岸沢式佐作曲
*関連項目 [#f183bc99]
*タグ [#dbd34195]
#鬼
*分類番号 [#q21a8bd9]
00-1331200-m5d5r2b1-0001
RIGHT:常磐津 戻橋 歌詞
(桜田治助述)

『新玉の、年の三歳を待侘て、待るゝ顔に待つ顔を、合せ鏡の蒲団さへ、色でもてるか四手駕籠
〔二上り〕『花が人呼ぶ浮気の花が、月に〔合〕浮るゝ浮気な月に、浮に浮るゝ〔合〕ヤレ月花に
『折込ぢや
『合点ぢや
『かた山ぢや
『合点ぢや
『げこは酒手ではぎの花
『飲こんだ〔合〕
『さまは
『なる口こちや色しやうこ、紅葉も風にやつしごと、拍子とり/゛\来りける
『罷り出たる者は吾妻の与四郎と申す駕舁にて候
『罷り出たる者は難波の次郎作と申す豪い駕舁にて候
『アコレ/\、何ぼお主が難波/\と言ても、江戸のやうな紫色はあるまいが
『イヤ何ぼこなさんが爾言んしても江戸には又大阪のやうな揚屋は厶んすまい
『ア仲の町の灯篭が見せたいわい
『そんなら又住吉天満高津の祭、あのやうな仁輪加は厶んすまい
『事も愚や御殿山に飛鳥山、上野のやうな桜があるか
『ア伝法院の鶴が見せたいわい
『そんなら江戸のやうな結構なお屋敷があるか
『サアそれは
『しやつとでも言て見ろ
『ヤ此奴はあやまつと
『ちつとさうでも厶るまい、ハアヽ何の役にも立ぬ事を、いかい痴な、ときに棒組、あの山々の景色を見やれ
『どれ/\成程なア、よい景色だ
『あれを眺めて、さらば一服致さうか
『降さけ見れば雪ならで、おのが羽こぼすしらはとや、雲か煙草の薄煙輪になる梅に黄鳥も、まだ笹鳴の擦火打、石より堅い棒組に、角のとれたる息杖は、五枚銀杏に三ッ銀杏、よい相方の戻駕籠
『何と次郎作、おいらが乗て来た振袖は何であらうな
『あれは島原の傾城、小車太夫の禿さ、そんなら此処へ呼び出して、島原の郭の話を聞かうぢやあるまいか
『これはよからう、サア/\姉さん爰へお出/\
『谷の戸開て黄鳥の、まだ里馴ぬ風情にて、面はゆげなるその素振、申し此処はマア何といふ所で厶んすへ
『此処は紫野といふ所さ、ときに姉さん、何と島原の郭の話を、話して聞せる気はないか
『サアそれは
『これその代りに俺も江戸の吉原の情事を、あとで話して聞せるは、コレ棒組お主も新町の話をする気はないか、どうだ/\
『さう言ば俺も又新町では花をやつたものよ、此駕舁に引換て、紋日物日の扮装は、腰巻羽織一つ前、よしや男の丹前姿、ゆりかけ/\寛濶出立ナ見せたいわい
『さうであらうよ、迚もの事に其話が、聞たいわいな/\
『成程話して聞さうが、肝心の大小がない
『おつとそこらは合点と、息杖取て差出せば
『これもあたらし風俗と、其儘とつてつかみ差
『また往昔に
『立帰り
『振て振出す花吹雪〔合〕振出す振出す花の雪よの〔合〕腰巻羽織雲の帯
『上の町どつこい下の町
『どつこい
『中の/\/\仲の町、さまに〔合〕焦れて柴船の、薫り床しき一つ前、どつと褒てとうした流石東の男山
『コイヨ
『子イ
『おらは元来つかはれ者よ、今度此度めされた気転きかせて智恵の輪出して、やるぞ白紙ふみばこちさう衆生済度にいろがの、晩に御座らば窓から御座れ、窓は広かれ身は細かれ、忍び来る夜の其風俗は、恋の奴の通り者
『サアこれからは相方の女郎がなければ話されぬ
『コレ此子が禿でなくばなア
『そんなら私が禿故、その相手にはならぬかへ、ヲヲしんき
『禿々とたくさんさうに、言ておくれな訳見習ふて、軈て悪所を島原の、ませよりそむるあいの花、外で弄られ内では堰れ、ほんに身もよも霰ふる、雨の柳の出口まで、幾度通ふ小夜千鳥、鳴やしよさいか味気なや
『やんや/\どうもいへぬ、是でまあ京大坂の話は済だといふものだ、サア/\これから江戸の吉原話しを、与四郎頼むは/\
『先おれが情事と言は、江戸町でなし二丁目でなし角町京町小店でなし河岸でなし
『そして何処ぢや
『恥かしながら河豚汁よ
『ハヽア鉄砲か
『あやまるの
『サア其話が聞たい/\
『問れて言も恥かしいが、広袖であらうが細帯であらうが、逢たいといふ日にやア闇雲よ、雷神門にも柳橋にも、猪牙も四手も多けれど、奴を思へば日和下駄で帯を締直して、ずつと駆出すせうがにやア
『地廻り節に声絞る、つい手拭の頬冠り
『月待日待だいまちや、田町に御座る法印さんの、守りお札や占やさん、よく相性も木性と火性、吸付煙草の火皿さへ、鉄砲店の気散は、短き夜半をきり/\す、枕も床も上草履、浮気同士の仇競べ〔合〕廻らば廻れ女気の、口説せぬ日も茶碗酒、コハ馬鹿らしいぢやないかいな
『ア成程きついものだ、イヤまた新町の揚屋といふは別なものよ、太夫天神引舟鹿恋、限りの太鼓をうつまでは、それは/\賑かな事、何と話して聞さうか
『こりや面白からう、サア/\所望ぢや/\
『先揚屋の数は十二軒、十二因縁を表したり〔合〕九品の浄土の九軒町、瓢箪町の名にうかむ〔合〕弥陀の西口継節の〔合〕歌三味線の音楽に〔合〕虚空に花を降らせつゝ、歌舞の菩薩の〔合〕揚屋入
『恋の山口名も高島や〔合〕色の世界に住吉や〔合〕通ひ馴たる新町の、井筒にかけし大和歌、由縁の端の兼好が、酒に底なき盃盞も、直にはうけぬ横町の、童子と聞ば茨木や、手元みやこと捻上戸、あれ暁方の明星が、西の扇や東にも、ちらり/\/\ちらりと千鳥足、生野暮薄鈍情なし手なしの癖として、悪洒落いふたり大通仕打はあるまいが〔合〕どうい理屈か気が知ぬと、太夫が心をひいたれば、其処で彼奴めもむつとして、コレ/\此の胸づくしを此様にとつたほうから涙ぐみ、そりやマアなんの事ぢやいな、私やお前に打込で、身をつくしたる難波潟、梅よりすいな殿振に、誑されて咲く〔合〕室の闇、昼も屏風の冬籠り、抱て音締の三味線も、いとし男をよそへ歌〔合〕軈て東へ行身ぢやものと、袂に露を置炬燵、布団のうちの悪洒落が、この紫色の江戸自慢、捻らしやんしよが、叩かんしよが、とても邪慳な気に惚た、女子心の一筋は、コレこの癪の手を取て、引寄入るゝ懐中の、うちより取出す千鳥の香炉、此方は出る連判状、それを、どつこい
〔三下り〕『錦織るてふ木々の色、濡て〔合〕ぬる夜の色見草〔合〕時雨にそむる後朝は、可愛らしいぢや〔合〕ないかいな、アヽ可愛らし〔合〕
『水に住むてふ浮寐鳥、さまとぬる夜のぬくめ鳥、別れも鴛鴦の思ひ羽は、可愛らしいぢやないかいな、アヽ可愛らし、可愛らしさと夕日ばへ
『たよりは物馴れ事馴れて、煙管を時の盃盞と、二人が中へ差出せば、互ひに我から/\と、早くも心解け合ふて、目元に含む笑の眉、開くや花の顔見世は頼もしかりける次第なり
*分類番号 [#E688015314]
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データ入力日:2016/05/17
RIGHT:常磐津 戻駕 歌詞