戻駕(常磐津) - 純邦楽詞章集

題名

戻駕(もどりかご)

本名題

戻駕色相肩(もどりかごいろにあいかた)

詞章

声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第4編 常磐津集(明治42年)

(資料の題名『戻駕色相肩』)
(資料の題名読み「もどりかごいろのあいかた」)

(桜田治助述)

『新玉の、年の三歳を待侘て、待るゝ顔に待つ顔を、合せ鏡の蒲団さへ、色でもてるか四手駕籠
〔二上り〕『花が人呼ぶ浮気の花が、月に〔合〕浮るゝ浮気な月に、浮に浮るゝ〔合〕ヤレ月花に
『折込ぢや
『合点ぢや
『かた山ぢや
『合点ぢや
『げこは酒手ではぎの花
『飲こんだ〔合〕
『さまは
『なる口こちや色しやうこ、紅葉も風にやつしごと、拍子とり/゛\来りける
『罷り出たる者は吾妻の与四郎と申す駕舁にて候
『罷り出たる者は難波の次郎作と申す豪い駕舁にて候
『アコレ/\、何ぼお主が難波/\と言ても、江戸のやうな紫色はあるまいが
『イヤ何ぼこなさんが爾言んしても江戸には又大阪のやうな揚屋は厶んすまい
『ア仲の町の灯篭が見せたいわい
『そんなら又住吉天満高津の祭、あのやうな仁輪加は厶んすまい
『事も愚や御殿山に飛鳥山、上野のやうな桜があるか
『ア伝法院の鶴が見せたいわい
『そんなら江戸のやうな結構なお屋敷があるか
『サアそれは
『しやつとでも言て見ろ
『ヤ此奴はあやまつと
『ちつとさうでも厶るまい、ハアヽ何の役にも立ぬ事を、いかい痴な、ときに棒組、あの山々の景色を見やれ
『どれ/\成程なア、よい景色だ
『あれを眺めて、さらば一服致さうか
『降さけ見れば雪ならで、おのが羽こぼすしらはとや、雲か煙草の薄煙輪になる梅に黄鳥も、まだ笹鳴の擦火打、石より堅い棒組に、角のとれたる息杖は、五枚銀杏に三ッ銀杏、よい相方の戻駕籠
『何と次郎作、おいらが乗て来た振袖は何であらうな
『あれは島原の傾城、小車太夫の禿さ、そんなら此処へ呼び出して、島原の郭の話を聞かうぢやあるまいか
『これはよからう、サア/\姉さん爰へお出/\
『谷の戸開て黄鳥の、まだ里馴ぬ風情にて、面はゆげなるその素振、申し此処はマア何といふ所で厶んすへ
『此処は紫野といふ所さ、ときに姉さん、何と島原の郭の話を、話して聞せる気はないか
『サアそれは
『これその代りに俺も江戸の吉原の情事を、あとで話して聞せるは、コレ棒組お主も新町の話をする気はないか、どうだ/\
『さう言ば俺も又新町では花をやつたものよ、此駕舁に引換て、紋日物日の扮装は、腰巻羽織一つ前、よしや男の丹前姿、ゆりかけ/\寛濶出立ナ見せたいわい
『さうであらうよ、迚もの事に其話が、聞たいわいな/\
『成程話して聞さうが、肝心の大小がない
『おつとそこらは合点と、息杖取て差出せば
『これもあたらし風俗と、其儘とつてつかみ差
『また往昔に
『立帰り
『振て振出す花吹雪〔合〕振出す振出す花の雪よの〔合〕腰巻羽織雲の帯
『上の町どつこい下の町
『どつこい
『中の/\/\仲の町、さまに〔合〕焦れて柴船の、薫り床しき一つ前、どつと褒てとうした流石東の男山
『コイヨ
『子イ
『おらは元来つかはれ者よ、今度此度めされた気転きかせて智恵の輪出して、やるぞ白紙ふみばこちさう衆生済度にいろがの、晩に御座らば窓から御座れ、窓は広かれ身は細かれ、忍び来る夜の其風俗は、恋の奴の通り者
『サアこれからは相方の女郎がなければ話されぬ
『コレ此子が禿でなくばなア
『そんなら私が禿故、その相手にはならぬかへ、ヲヲしんき
『禿々とたくさんさうに、言ておくれな訳見習ふて、軈て悪所を島原の、ませよりそむるあいの花、外で弄られ内では堰れ、ほんに身もよも霰ふる、雨の柳の出口まで、幾度通ふ小夜千鳥、鳴やしよさいか味気なや
『やんや/\どうもいへぬ、是でまあ京大坂の話は済だといふものだ、サア/\これから江戸の吉原話しを、与四郎頼むは/\
『先おれが情事と言は、江戸町でなし二丁目でなし角町京町小店でなし河岸でなし
『そして何処ぢや
『恥かしながら河豚汁よ
『ハヽア鉄砲か
『あやまるの
『サア其話が聞たい/\
『問れて言も恥かしいが、広袖であらうが細帯であらうが、逢たいといふ日にやア闇雲よ、雷神門にも柳橋にも、猪牙も四手も多けれど、奴を思へば日和下駄で帯を締直して、ずつと駆出すせうがにやア
『地廻り節に声絞る、つい手拭の頬冠り
『月待日待だいまちや、田町に御座る法印さんの、守りお札や占やさん、よく相性も木性と火性、吸付煙草の火皿さへ、鉄砲店の気散は、短き夜半をきり/\す、枕も床も上草履、浮気同士の仇競べ〔合〕廻らば廻れ女気の、口説せぬ日も茶碗酒、コハ馬鹿らしいぢやないかいな
『ア成程きついものだ、イヤまた新町の揚屋といふは別なものよ、太夫天神引舟鹿恋、限りの太鼓をうつまでは、それは/\賑かな事、何と話して聞さうか
『こりや面白からう、サア/\所望ぢや/\
『先揚屋の数は十二軒、十二因縁を表したり〔合〕九品の浄土の九軒町、瓢箪町の名にうかむ〔合〕弥陀の西口継節の〔合〕歌三味線の音楽に〔合〕虚空に花を降らせつゝ、歌舞の菩薩の〔合〕揚屋入
『恋の山口名も高島や〔合〕色の世界に住吉や〔合〕通ひ馴たる新町の、井筒にかけし大和歌、由縁の端の兼好が、酒に底なき盃盞も、直にはうけぬ横町の、童子と聞ば茨木や、手元みやこと捻上戸、あれ暁方の明星が、西の扇や東にも、ちらり/\/\ちらりと千鳥足、生野暮薄鈍情なし手なしの癖として、悪洒落いふたり大通仕打はあるまいが〔合〕どうい理屈か気が知ぬと、太夫が心をひいたれば、其処で彼奴めもむつとして、コレ/\此の胸づくしを此様にとつたほうから涙ぐみ、そりやマアなんの事ぢやいな、私やお前に打込で、身をつくしたる難波潟、梅よりすいな殿振に、誑されて咲く〔合〕室の闇、昼も屏風の冬籠り、抱て音締の三味線も、いとし男をよそへ歌〔合〕軈て東へ行身ぢやものと、袂に露を置炬燵、布団のうちの悪洒落が、この紫色の江戸自慢、捻らしやんしよが、叩かんしよが、とても邪慳な気に惚た、女子心の一筋は、コレこの癪の手を取て、引寄入るゝ懐中の、うちより取出す千鳥の香炉、此方は出る連判状、それを、どつこい
〔三下り〕『錦織るてふ木々の色、濡て〔合〕ぬる夜の色見草〔合〕時雨にそむる後朝は、可愛らしいぢや〔合〕ないかいな、アヽ可愛らし〔合〕
『水に住むてふ浮寐鳥、さまとぬる夜のぬくめ鳥、別れも鴛鴦の思ひ羽は、可愛らしいぢやないかいな、アヽ可愛らし、可愛らしさと夕日ばへ
『たよりは物馴れ事馴れて、煙管を時の盃盞と、二人が中へ差出せば、互ひに我から/\と、早くも心解け合ふて、目元に含む笑の眉、開くや花の顔見世は頼もしかりける次第なり

分類番号

00-1331200-m5d5r2k1-0001
データ入力日:2016/05/17

常磐津 戻駕 歌詞