#author("2016-10-21T11:11:59+09:00","default:Tomoyuki Arase","Tomoyuki Arase")
#contents
*題名 [#r7959cae]
権下(ごんげ)
*本名題 [#b1ed9ae3]
其小唄夢廓(下)(そのこうたゆめもよしはら(げ))
*詞章 [#e5df8d33]
**声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年) [#ke9b044e]
(資料の題名『其小唄夢廓』)
(目次には括弧書きで「小紫権八」とある) 

(福森亭宇助述)

『間夫と言ふも〔合〕里の名〔合〕客と言ふも里の名、嘘と誠の分隔て
『それも鳴く音の黄鳥も〔合〕梅に三浦の小紫、粹な由縁と我ながら、わがつま琴とかき鳴す、思のたけの尺八も〔合〕恋慕流は権八が〔合〕一ト夜切とは気にかゝり、又黄鍾の調子とて、合せられても春の夜の〔合〕夢もさながら合の手に、強て見せたる瘤柳、煙る柳の煙草盆、互に引合ひ顔反向け、身を反向けたる風見草
『コレイナア権八さん、最前までも今までも、機嫌ようして居ながら、何故にマア其の様に
『腹が立たいで何とせう、最前白柄とやらが相方になつたとの事
『アレマアそんな廻り気ばつかり
『コリヤぬかし居るなヱヽおのれはなア
『人の心と飛鳥川、今日の今まで其の様な、うつり心の紐鏡、冷い心は
『オヽ夫れよ〔合〕女郎の誠と玉子の四角、泣いて〔合〕だまして綾なして、嘘つきそめて正月か、男をかける輪飾は〔合〕よくとく棚の恵方から、ちく大黒が御座つた〔合〕踊もつて御座つた、口から出ほう大黒舞、天てれん女郎の能には、一に〔合〕たはけの文まくら〔合〕二に二世かけた張もなく、三にさながら仇惚の、欲大黒を見さいな
『さう言んすりやこちからも、それが男の徳若に、御全盛とてわしに逆ひましんます〔合〕客立帰る旦より、水ももらさず〔合〕相惚の、誠の色にてさふらひける
『それに其の様な胴欲な〔合〕若水臭い強言葉、辛い勤の其の内に〔合〕情は売れど心まで〔合〕売らぬ私が苦界の誠、縁にひかれて破魔弓の、やがて廓の年あけて〔合〕名も呼び変へておかもじと、楽しむ甲斐も七草と、畳たゝいて泣く涙、目も春雨にそめぬらん
『オヽ其の親切は忝けないが、最前よりつれない仕なしは、縁にひかれてそなたを憂目にあはせまいため
『エそりや何と言はしやんす
『サア仔細あつて多くの金子調達せねばならぬ権八、身を捨てこそ浮む瀬と、心に思はぬ悪事のさま/゛\、同類の本目丈八が心変り、若しも彼奴めに訴人されなば、いつぞや見しが正夢にて、刑罪にあふは知れた事
『エヽそんならせんどの夢が正夢で
『愛想がつきたか、小紫さらばぢや
『アヽモシ何の斯うなつたら、死ぬるも生るもかねての約束
『スリヤ立退なら一所に行か
『サア立退までもお前のまへふり、人目にたてば何卒まア
『如何さま姿でも変へ、逃かくるゝと世の嘲弄も、望のかなふまでの辛棒
『そんなら得心して下さんすか
『如何にも
『嬉しう御座んす、幸ひこゝに此の鏡台、千筋と撫でし前髪も
『剃らねばならぬ男なり
『胸の鏡もかき曇る、涙に櫛笥とり添て
『心の内の乱れ髪
『結ひ直してあぎやうないなア
『散ればこそ、身に降り積る花吹雪〔合〕儚き縁の合せ砥に、斯かる思ひの〔合〕あらうとは〔合〕神ならぬ身の権八が、祝ふて落す前髪を、涙で揉んで剃落す、向ふ鏡に小紫〔合〕男なりせし面影を、見かはす袖も比翼塚、後の浮名や残るらん/\
**国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」 [#t6e5ca3c]
(目次の題名『其小唄夢廓』(権八)本文の題名『下の巻』)

〔コトバ歌ガヽリ〕「まぷといふも〔合〕さとの名〔合〕客といふもさとの名〔合〕うそと誠のわけへだて〔合〕
「それもなくねの鶯も〔合〕梅に三浦の小紫〔合〕粋なゆかりとわれながらわがつまごとゝかきならす思ひの竹の尺八も〔合〕
「れんぼながしは権八が一とよぎりとは気にかゝり〔合〕また黄鐘の調子とてあはせられても春の夜の夢もさながら合の手に〔合〕すねて見せたるこぶ柳〔合〕けむるやなぎの煙草盆互に〔合〕引き合ひ〔合〕顔そむけ身をそむけたる風見ぐさ
〔菊〕「コレイナ権八さん最前までも今までも機嫌ようして居ながらなぜにマア其やうに
〔團〕「腹が立たいで何とせう最前白柄とやらが相方になつたとの事
〔菊〕「アレマアそんなまはり気ばつかり
〔團〕「コリヤぬかし居るなエおのれはな
「人の心と飛鳥川今日の今までそのやうなうつり心のひもかゞみつめたい心は
「ヲヽそれよ〔合〕女郎の誠と玉子の四角ないてだましてあやなしてうそつきぞめを正月か〔合〕男をかける輪飾は〔合〕よくとく棚の恵方からちく大黒がこざつた〔合〕おどりもつてござつた口から出ほう大黒舞天てれん女郎ののふには一に〔合〕たはけのふくまくら〔合〕二に二世かけたはりもなよ三にさながら仇ぼれのよく大黒をむさいな
「そふいはんすりや〔合〕こちからもそれが男のとく若に御全盛とてわしにさからいましんます〔合〕客たちかへるあしたより水ももらさす〔合〕相惚の誠に色にて候ひける
「それにそのよな胴慾な〔合〕若水くさいすねことば〔合〕つらいつとめのその内に〔合〕情はうれど〔合〕心まで売らぬわたしが苦界のまこと〔合〕
〔カン〕「ゑんに引かれてはまゆみのやがてくるわのねん明けて
「名も呼かへておかもじとたのしむ甲斐も七くさとたゝみたゝいて泣く涙目もはるさめにそめぬらん
〔團〕「ヲヽその親切は忝ないがさいぜんよりつれないしなしは縁に引かされそなたをうき目にあはせまいため
〔菊〕「エそりやなんと言はしやんす
〔團〕「サアしさいあつて多くの金子調達せねばならぬ権八身を捨てゝこそうかむ瀬と心に思はぬ悪事のさま/゛\同類の本目丈八が心変り若しもきやつめに訴人されなばいつぞや見しが正夢にて刑罪にあふは知れた事
〔菊〕「ムヽそんならせんどの夢が正夢で
〔團〕「あいそがつきたら小紫さらばじや
〔菊〕「アヽモシなんのこふなつたら死ぬるも生るもかねての約束
〔團〕「スリヤ立退くなら一緒に行くか
〔菊〕「サア立退くまでもお前のまへぶり人目に立てばどふぞまア
〔團〕「いかさま姿迄もかへにげかくるゝと世のあざけりも望の叶ふ迄の辛抱
〔菊〕「そんなら得心して下さんすか
〔團〕「ヲヽいかにも
〔菊〕「エエうれしうござんす幸に此処に此鏡台千筋となでし前髪も
〔團〕「そらねばならぬ男なり
〔菊〕「胸の鏡もかきくもる涙にくしげとりそへて
〔團〕「心のうちの乱髪
〔菊〕「結び直して上げうはいな
〔歌ガヽリ「ちればこそ身にふりつもる花吹雪〔合〕はかなき縁のあはせどに〔合〕かゝる思ひの〔合〕あらふとは〔合〕
「神ならぬ身の権八がいはふて落す前髪を〔合〕
〔カン〕「涙でもんでそりおとす向ふ鏡の小紫おとこなりせし面影を〔合〕見かはす袖もひよくづか後の浮名に残るらん/\。
*その他の情報 [#je8f9303]
文化13年(1816)1月
*関連項目 [#of64b1c3]
[[権上(清元)]]
*タグ [#w148d44c]
*分類番号 [#c5d67ee7]
00-1331211-g5n0g400-0001
RIGHT:清元 権下 歌詞