題名

お半(おはん)

本名題

道行思案余(みちゆきしあんのほか)

詞章

声曲文芸研究会『声曲文芸叢書』第3編 清元集(明治42年)

(資料の題名『道行思案余』)
(資料目次に括弧書きで「お半長右衛門」とある)

(桜田治助述)

『浮名を流す川水も、桂にあらぬ綾瀬川、月も朧に春の夜の、夢ばかりなる手枕を、結ぶ帯屋の長右衛門
『お半を脊に〔合〕あふ瀬さへ、今身に辛き仇事の〔合〕返らぬ道とひと筋に、なんの〔合〕嬉しの森過ぎて〔合〕名残は尽きぬ中の郷、吾妻橋を後になし〔合〕
『脊を下ろせば流石にも〔合〕姿つくらふ振袖に〔合〕風の含みてほら/\と、空に雨持つ〔合〕鐘の音も、九ツこゝに北東、隅田に手繰の〔合〕火影さへ〔合〕翌待たぬ身のなにかせん、長命寺とも頼まれぬ〔合〕世は牛島の浮世ぞと、儚きことを歎つにぞ
『ほんに思へば昨日今日〔合〕まだ三味線の手ほどきも〔合〕お前に習ひそれからが〔合〕御師匠さんへ生田流、琴や豊後の文句にも〔合〕
『みんな女子は一生に、男といふはたゞ一人〔合〕二人と肌を触れるのは、どんな〔合〕本にも年々の〔合〕草双紙にもない事を、よう見て聞ていたづらな
『顔にも咲し初花は、杉田の梅の〔合〕香も知らぬ
『その江の島へ雪の下〔合〕あの石部屋で〔合〕丁度ヤア堅いお前に合宿も、弁天さんの引合せ
『初めて恐い恥しい、あとで〔合〕嬉しい枕して〔合〕それから旅の夢見草
〔二上り〕『扨も見事な〔合〕お葛籠馬よ〔合〕蒲団重ねて跡附て〔合〕お江戸上りのナアエ〔合〕三度笠ナアエ〔合〕島さん紺さん中乗さん、遣てかんせ〔合〕
『ほうらんせ
『知らぬが伊勢路を道もせも〔合〕覚て内外の義理詰に
『コレお半道々も言ふ通り、此の長右衛門は義理に義理、所詮死ねばならぬ身の上そなたはまだ、老先のある体、殊に又親御の恨お絹が思惑、そなたは兎に角長らへて、我が亡き跡をとふてたもるが此の上の事、思ひ直して爰から早う帰つて呉れ、聞分てたもコレお半
『お半はなんと泣いじやくり、袖に涙を持ち添へて〔合〕顔うち眺め〔合〕長右衛門さん〔合〕なんぼ私が年ゆかぬと思ふてからに〔合〕お前ばかりが死なしやんして、こちや〔合〕やゝ産んで長らへて、居られうかいなコレ申し、ソリヤ〔合〕可愛いのぢやない憎いのぢや〔合〕小さい時から子心に〔合〕長右衛門さんが贔負ぢやと、言へばじらして悪う言ふ〔合〕そんなお人にや物言はぬ〔合〕笑はれる程いとしいの、念が通つて一度でも〔合〕縁を結ぶの神さんが〔合〕麁想であろとかまやせぬ〔合〕一所に殺して下さんせ〔合〕これいなこれと取付いて、膝に涙のぬれまさる
『今死ぬる身ながらも、せめては此の癪おさめてやりたいものぢやがな
『覚悟は他処に白髭の、塒へかへる目なし鳥
『手引もいらず女房も〔合〕持ぬ出居衆の気散じは、屋根代出せば家主へ〔合〕上手もつかはず夜番せず、宵から出放大道を〔合〕按摩針さへ当世は、笛でそれぞとしれかしの、杖に目がありや闇の夜に、鉄砲見世もそゝり節〔合〕可愛男の声はせで、蕎麦や〔合〕按摩の声ばかり、此奴はちつと肩癖を、いふこへくれて五百崎の、土手をぼつくり/\〔合〕たどり来る
『アヽ申し/\、わしは通りの者ぢやが、連の女が癪がおこつて難儀します、何卒療治をしてやつて下されぬか
『ムウ何ぢや此の土手で今時分療治してくれいとはハヽアオヽさうぢや
『いとし可愛のかず/\が、積ると書いて癪とやら〔合〕字は読めねども大方は、違ひ馴染の女郎か娘か、下女か女房か但しや乳母かなんにせい、心中して死ぬ〔合〕病人と、見てはとらねど聞きとつた、園八節でやらうなら〔合〕
『手に手を鳥の一ト声は、月が鳴いたか時鳥〔合〕冥途の鳥とか言ふげなが〔合〕これ迄ついしか極楽で、二人中よう世帯して〔合〕暮し候べく候と、言伝ひとつ状一本、どこへもきたる音沙汰は、内々どんな訳にせい、短気は損気ぢやコレナあるまいか
『とは言ふものゝ若しやお前方は狐ぢやないか、其の手ではまゐるまい
『つまゝれぬうちどりや爰を、眉毛ぬらして帰ましよ
〔二上り〕『ほんに美しみたらいつゝし、あれはさこれはさ、夜は開いて昼しぼむ、いよさのさの/\やつとこせ、あれはさこれはさ、よい/\
『わしが思は塩屋の煙、あれはさこれはさ、仇な浮名がたつはいな、いよさのさの/\やつとこせ、あれはさこれはさ、よい/\面白や
『よい間に早くと歌市は、懐中押さへて急ぎ行く
『お半覚悟しや
『見付られじと手をとつて、乱るゝ雨の糸柳、帯の綾瀬の川浪に、ふたりが名をや立ちぬらん

国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」

(目次の題名『道行思案余(お半長右衛門)』本文の題名『〔おはん/長右衛門〕道行思案余』)

国書刊行会『徳川文芸類聚』 俗曲上 第九 「柏葉集」

分類番号

00-1331211-a5h1n000-0001
データ入力日:2016/05/17

清元 お半 歌詞